19: ◆ikbHUwR.fw[saga]
2018/05/05(土) 11:16:57.68 ID:sqRoe9hI0
「どうぞ……気を付けてください」
鍵を開けたほたるちゃんが先に部屋の中に入る。
引っ越してきたばかりなので、中は当然がらんとしていた。間取りはあたしが住んでいる部屋と変わらない。家具と呼べるものは備え付けのベッドがひとつだけ、ほたるちゃんの荷物らしい開封されていないダンボール箱がいくつか、部屋の隅に積み重なっていた。
このなにもない部屋で、いったいなにを気を付けろというのだろう、と思った。そのとき――
「きゃう!」
ダンボールの塔が崩れ、ほたるちゃんの姿が埋まって見えなくなった。
「ええ……?」
あたしは絶句しつつ箱をひとつひとつ脇にどかしていき、うつぶせに倒れたほたるちゃんを発掘した。
「だいじょうぶ? ケガしてない?」
むくりと起きあがり、床にぺたんと座ったほたるちゃんが、点検するように体のあちこちを触り、小さく腕を回す。
手慣れているな、と思った。その動作はまるで決まった手順をたどるように、今までに何十回、何百回と繰り返してきたように、無駄がなく洗練されているように見えた。
「……平気です」
「なによりだね。それで……うん、だいたいわかったよ」
あたしは見ていた。
ダンボールが崩れる前、ほたるちゃんはそれにほんの少しも接触してはいない。なんの衝撃も受けていないのに、箱の山が勝手に動いて崩れた。
どんな理屈でそんなことが起こるのかはわからない。だけど、あの口ぶりからすると、どうやらこの少女にとっては、これが日常であるらしい。
難儀だね、なかなか。
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