133: ◆ikbHUwR.fw[saga]
2018/06/10(日) 19:02:50.70 ID:AfpWDvGb0
意思じゃなく、心がそう言った。
自分でも気付いていない心だった。
不幸のせいじゃなく、贖罪のためじゃなく、ただ私自身が、こんなにもステージに立ちたいと思っていたなんて。
プロデューサーさんが大きくうなずく。
「だけど残念ながら、話し合いの結果では、この後は一ノ瀬さんに出てもらうことになった。白菊を推薦してみたけど、俺の一存だけじゃどうにもならなくてね」
……それは、そうだろう。どう考えても私よりは志希さんのほうが信用がある。
夕美さんのプロデューサーさんや志希さんのプロデューサーさんなら、志希さんを選ぶのが当然だ。それが正しい。
「いや、キミ……さんざん人を惑わすようなこと言っといて、それはどうなの?」
志希さんがあきれたようにつぶやく。
「そう、思いますよね?」
プロデューサーさんが志希さんに向けて言う。
短い沈黙が流れた。
「……キミはひょっとして、あたしを説得してるのかにゃ?」
「察しのいいことで、助かります」
「キミは、346プロのプロデューサーだよね。その立場でありながら、今この状況において、あたしよりほたるちゃんがステージに上がったほうがいいと思うわけ?」
「はい」
志希さんとプロデューサーさんが無言で見つめ合う。空気が張り詰めて、銃でも突きつけあっているみたいだった。
志希さんがすっと目をそらし、ガリガリと血が出そうな勢いで頭を掻きむしった。
「…………わかったよ」
ガラス片を踏みにじって出口へと向かい、プロデューサーさんの横をすり抜ける。そして、いちど私のほうに振り返って、小さく笑った。
「志希ちゃん、失踪しまーす」
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