107: ◆ikbHUwR.fw[saga]
2018/06/02(土) 10:50:26.77 ID:Y+SAhLWq0
その日の夜、久しぶりに実家に連絡をしてみた。思えば346プロに入ったとき、書類の郵送をしたとき以来だった。
電話には父が出た。また移籍だろうか、と身構えてる雰囲気が電話越しでも伝わってくる。
「今度お客さん5000人ぐらい来るライブに出るんだ」
私が伝えると、電話からガタンという物音と、くぐもった悲鳴が届いた。
「あの……」
《少し待て》と父の痛みをこらえるような声がする。
電話を耳に当てたまましばらく待っていると、《もしもし》と、母の声に代わった。
「あ、お母さん、私……」
《聞いたよ、50000人だって? すごいじゃない》
「5000だよ」
私はあきれてつぶやいた。
たったふたりの伝言ゲームで、どうして10倍にまで膨れ上がってしまうのか。
「それも、先輩アイドルの代理だから、私は本当はまだまだで――」
母がうんうんと相槌を打つ。
「その……お父さんはだいじょうぶ? どこかぶつけた?」
《久しぶりにほたると話した感じがするって、痛がりながら喜んでるよ》
すごく反応に困ったけど、喜んでるのなら、まあいいのかな?
それからひとしきり、元気にしているかとか、ごはんはちゃんと食べてるかとか、お金は足りてるかなどと他愛のない話をして、母は最後に、
《寂しくなったら、いつでも帰ってきていいからね》
と言った。
私はきっと、笑っていたと思う。
「だいじょうぶ、寂しくなんかないよ」
嘘偽りなくこの言葉を返せることが、心の底から嬉しかった。
202Res/248.44 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
書[5]
板[3] 1-[1] l20