3: ◆U2JymQTKKg[sage saga]
2018/04/30(月) 23:54:09.51 ID:uVMGrv64O
孫がアイドルになりたいと言ったのはこの番組のせいだろう。さきほど息子が司会をしている快活な少女はアイドルなんだぞ、と孫に吹き込んでいた。
それに気づいてか、先ほどから息子を見る嫁の視線が鋭い。このままアイドルになりたいと駄々をこねたらどうするのかと思っているのだろう。
4: ◆U2JymQTKKg[sage saga]
2018/04/30(月) 23:55:15.84 ID:uVMGrv64O
息子に東京への転勤の辞令が出た。
本社への栄転ということで息子と嫁は顔には出さないもののウキウキとした雰囲気を出していた。
ただ、孫はというといつもどおり元気にしているものの、ふとした時にぼんやりとすることが増えていた。
5: ◆U2JymQTKKg[sage saga]
2018/04/30(月) 23:55:52.10 ID:uVMGrv64O
「1年間だけ俺が単身赴任するというのはどうだ?社宅の独身寮ならそんなにお金もかからない」
「環はまだ11歳じゃ。父親と離れ離れになるのは良くない」
私は熱い緑茶をすすりながら口を挟む。
6: ◆U2JymQTKKg[sage saga]
2018/04/30(月) 23:56:33.14 ID:uVMGrv64O
翌日、学校から帰ってきた孫は変な黒い男を連れてきた。
思わず逆さ箒で対応してしまったが、どうやら裏の森で迷っていた所を孫が助けてあげたらしい。
「いやあ、助かりました」
7: ◆U2JymQTKKg[sage saga]
2018/04/30(月) 23:57:03.65 ID:uVMGrv64O
「アイドル?アイドルってひびきちゃんみたいな?」
「おお、我那覇くんはうちの誇るアイドルだ」
高木は嬉しそうに笑った。
8: ◆U2JymQTKKg[sage saga]
2018/04/30(月) 23:57:44.95 ID:uVMGrv64O
その日の夕食後、4人で食卓を囲み、昨晩話した単身赴任の話をした。
「お父さんが一人で……?」
「ああ」
9: ◆U2JymQTKKg[sage saga]
2018/04/30(月) 23:58:55.01 ID:uVMGrv64O
「環や、東京は悪いところじゃないぞ」
私はお茶で口を湿らせる。
「確かにこの村ほど自然はない。動物も少ない。水切りも出来る場所はあるが石が少ないかもしれん。でもな、この村にないものがたくさんあるんじゃ」
10: ◆U2JymQTKKg[sage saga]
2018/04/30(月) 23:59:26.04 ID:uVMGrv64O
「だって、東京に行ったら、ばあちゃんと一緒にいられないんでしょ!?そんなのイヤだよ!」
私は孫の言葉に身体を動かせずにいた。
「ねぇ、お父さん、お母さん。ばあちゃんは一緒に行けないの!?みんなで一緒に暮らせないの?なんでダメなの!?」
11: ◆U2JymQTKKg[sage saga]
2018/05/01(火) 00:00:08.79 ID:AOcRE9UGO
「環や、私のことは気にしなさんな」
「でも……」
「ばあちゃんには裏の畑があるし、友達もいる。寂しいことなんてないさ」
12: ◆U2JymQTKKg[sage saga]
2018/05/01(火) 00:00:38.01 ID:AOcRE9UGO
しばらくして息子夫婦は東京へと旅立ち、そしてさらに月日が経った。
今日、私はいつも以上に早く目が覚めた。約束の時間まで12時間以上あるというのに、だ。
いつもどおりの朝ごはんを食べ、粛々と一日を過ごした。ただ、町に買い物へ出かけた時、お茶屋さんでいつもよりちょっとだけいいお茶を買った。
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