77:名無しNIPPER
2018/11/09(金) 00:36:11.17 ID:x5VviyjQ0
「……開いてるよ」
呻くように答えながら、上条は顔を上げて壁にかけられた時計を見る。
時刻は午後四時過ぎ、定期検診や夕食の時間ではないが、大体見当がつく。
ガララと引き戸を開けて入ってきたのは、地元の中学校の制服を着た少女だった。
彼女は美樹さやか。
彼のクラスメイトであり、幼なじみでもある。
時折、放課後にこうやってお見舞いに来てくれる。
彼女は少しだけこちらの様子を伺うように立ち止まると、心配そうに声をかけた。
「大丈夫恭介? 何か、顔色悪いみたいだけど」
「ああ……何でもないよ。ちょっと考え事をしててね」
そうなんだ、と歯切れの悪い返事をしながらさやかは丸椅子をベッドの側に寄せて来る。
彼女は上条の左手が動かない事を知っている。
最古の『聴衆』と言ってもいい彼女にとってそれがどういう意味を持つのかはよく分かっているのだろう。
最近の上条に対する態度も、どこかよそよそしいものがあった。
「ご飯、ちゃんと食べてる?」
「うん……まあ何とかね。それで? 今日はどうしたの?」
「な、何だか棘があるね今日の恭介」
言ってさやかはあははと小さく笑った。
そうしながら、彼女はスクールバッグの中から袋を取り出した。
中に入っていたのはCDケース。
チラリと見えたパッケージに、上条は少し顔を強張らせる。
「それは?」
「クラシックのCD! 恭介が好きそうなの選んできたよ」
「……、ありがとう。でも今はそんな気分じゃないんだ。後から聞かせてもらうよ」
「えー!? 何でそんな事言うのさ。せっかく買ってきたんだから一緒に聞こうよ!」
ベッド側の物入れからCDプレイヤーを取り出しイヤホンを付けてケースの外装フィルムを剥がしていくさやか。
CDをセットすると、はいっ! という元気な掛け声と共にイヤホンの片側を上条に差し出した。
「……、」
上条は訝しげな表情でイヤホンを耳に当てる。
もう片方はさやかが着けている。
一つのイヤホンを分け合うので、当然両者の顔が近くに寄ることになる。
幼なじみ同士なのでそこはお互いあまり気にしていないのだろうが、それでも顔を見つめ合わせ続けるのはさすがに恥ずかしいので、自然と上条の肩にさやかの頭がもたれかかるような体勢になる。
前を向いているので互いの顔は見えない。
だからこそ気付けなかったのかもしれない。
上条の表情の変化に。
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