垣根帝督「協力しろ」鹿目まどか「ええ…」
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76:名無しNIPPER
2018/11/09(金) 00:35:10.93 ID:x5VviyjQ0

原因は単純な接触事故だ。自転車と自動車の。

事故直後は大した怪我は無いように見えたし、本当に打ち所が悪かったとしか言いようがない。

相手の運転手は誠心誠意対応し、治療費、慰謝料も支払われたが、彼にとってはそんなことはどうでもいい。

今まで歩いてきた道、そしてこれから先も見据えていた夢が突然目の前で途切れたのたという喪失感、それは本人以外には理解できないもので、他の何かで埋め合わせる事なんてできない。

今まで費やしてきた長い時間が一瞬にして単なる思い出に変わった。

自宅のトロフィーや賞状もこうなったら過去の栄光でしかない。

絶望。

それは次第に怒りへと変わるが、それをぶつける対象がいないのもまた問題だった。

加害者は事故直後すぐに上条に駆け寄って救急車を手配し、彼が入院してからも何度も何度も謝罪に訪れた。

まるで自動車学校の教材ビデオのような見本的対応で、そこに落ち度はない。

そもそも今回の事故は信号もない裏通りで起こった、いわば双方の過失によるもので、それについて幾度となく一方的に頭を下げられ続けると、まるで自分が悪人のように感じてしまう。

彼の性格的にもそんな相手をさらに追撃し、糾弾することなんて到底できなかった。

(むしろ相手が擁護しようもないクズだったら良かったのに。それなら、こっちも何のためらいもなくーー)

と、そこまで考えて上条は苦虫を噛み潰したような顔で舌打ちした。

そんな事を考えてしまう自分の性格に虫酸が走る。

別に自分を高尚な人間だとは思っていないが、己の内面に自分自身の薄汚い感情を呼び起こされる事に彼は嫌悪感を抱かずにはいられなかった。

ただでさえ希望を潰されて鬱屈しているのに、加えて自分の人格まで否定されているような気がして一層気が滅入りそうになる。

それを避ける為に無理やり自分を肯定しようとするが、少し前に読んだ本に書かれていた『人はピンチの時ほど本性が現れる』という一文を思い出して彼は頭を抱える。

(違う。僕はそんな奴じゃない。これは一時の気の迷いだ。本心なんかじゃない)

だが、そう否定しようとすればするほど、染み出る暗い感情と、それが上条の本性だと証明する為の理屈が頭の中に浮かんできてしまう。

実際はネガティブな心理状態を怒りに変えて何かにぶつけて発散させようとするのは一種の防御本能なのだが、そんな事を知らない上条はひたすら己を蝕む黒い感情と戦い続ける。

入院中、上条はこんな一人問答を何度も繰り返していた。

事故は彼の身体だけでなく、精神にまで傷を付けてしまっていたのだ。

否定したいけど否定できない。でも肯定すれば自分自身を否定することになる。

逃げ場のない思考のデフレーション。それを遮断したのは唐突に聞こえた扉のノック音だった。



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