垣根帝督「協力しろ」鹿目まどか「ええ…」
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75:名無しNIPPER
2018/11/09(金) 00:32:57.39 ID:x5VviyjQ0
        ☆


上条恭介にはヴァイオリニストになるという夢があった。

いつからそう思うようになったのかはよく覚えていない。

気付いた時には、生活の中心にヴァイオリンが据えられていたのだから。

だが、彼はそんな生活を嫌だと思った事は一度もない。

理由は色々だが、やはり周りの人を喜ばせたいというのが大きいだろう。

自分の演奏を聞いてくれた人たちが、良かったと言って拍手を送ってくれる。

そうすると、もっと上手くなってより多くの人を感動させたいと思って努力する。

彼の部屋にはその結晶と言うべきトロフィーや賞状が整然と並べられていた。

そして、そんな上条は今、真っ白なベッドの上で仰向けになっている。

と言っても、自室のではない。

彼は見滝原市内にある総合病院の個室にいた。

「……、」

よく晴れた昼下がりの午後。

窓の外からは部活でランニングをしている学生たちの元気な掛け声が響いているが、上条は意識すら向けない。

彼は自分の顔の前に出した左手を見つめている。

実は握り拳をつくろうとしているのだが、その五指はコードが切れた扇風機のように何の反応もしてくれない。

というより肘から先は自分の身体の一部であるという感覚がない。

まるでグローブでもぶら下げているような違和感。

彼はしばらく動かない左手を見つめていたが、フッ、と自嘲するように息を吐いて力を抜いた。

ボスンという音と共に腕がベッドに沈み、クッションの弾力が手首から上だけに伝わる。

「……っ」

つぅ……と目尻から透明な液体が漏れだすのを感じるが、それを手で拭おうとすら思えなかった。

滴が耳の横を掠めて頬を伝っていく気持ち悪い感覚が、これは現実なんだと却って思い知らせてくれる。

もう左手は動かないという、紛れもない真実を。

もう何度目だよ、と上条は誰にでもなく呟いた。



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