28:名無しNIPPER
2018/05/14(月) 00:04:40.39 ID:9IwGh1rH0
☆
「0930事件、ねぇ……」
SNSのタイムラインに流れてくるワードを拾いながら、誉望万化はポツリと呟いた。
ここは学園都市にある高層ビルの中。
2つの部屋をぶち抜いたような広大な空間には不自然なほど物が少ない。
殺風景な部屋に無造作に置かれたソファに背をもたれながら、彼はタブレットを操作している。
「はぁ……、もう10月だってのに何なのかしらこの暑さは」
すると、その台詞に反して非常に涼しそうな格好をした少女が入ってきた。
ハイヒールに真っ赤なドレスを着た彼女は、街頭で貰ったのだろうか、その格好に似合わず居酒屋のロゴが入ったうちわで顔を扇いでいる。
「……誉望さん、誉望さん。私、友達とショッピングする夢が叶いましたぁ!」
続いてニヘラァ……、だらしない笑顔を浮かべて入ってきたのは髪をツーサイドアップにまとめた少女だ。
肩にかけられたスクールバックには『弓箭猟虎』と書かれたネームシールがある。
これで『ゆみやらっこ』と読む。
「いやショッピングって……、ただコンビニ行ってただけだろ」
「しかも友達じゃないしね」
ドレスの少女がうちわの柄を向けながらツッコミを入れる。
ひ、酷い! と喚く少女を無視して誉望はビニール袋からペットボトルの炭酸飲料を取り出す。
対してドレスの少女はカップのアイスコーヒーをストローで啜りながら、
「何見てたの」
「ん? いつも通りリアルタイムの情報を漁ってただけだよ」
「はぁ、今なんてどこ見たって0930事件の話題で持ちきりでしょうに」
「ご名答」
誉望は強めの炭酸で喉と胃を潤しながら、
「物的被害は少なかったから実感が湧きにくい部分はあるんだろうけど、それを抜きにしても学園都市に衝撃を与えるには十分だ」
「むしろ目に見える被害が少ないからこそ、分からない部分を憶測で埋めようとして、確証の無い噂が飛び交う原因になっているんでしょうね」
「だろうな」
誉望はドレスの少女の言葉に頷く。
学園都市は9月の終わりに外部からの大規模攻撃を受け、パニックに陥った。
しかし、攻撃といっても街がめちゃくちゃに破壊された訳ではなく、大量の死体がそこら中に転がったという訳でもない。
ただ音もなく、学園都市内のあちこちで謎の集団昏倒事件が起きただけだ。
そして彼らは、全員もう回復している。
起こった日付から『0930事件』と呼ばれるこの出来事は、学園都市ならず、今や日本中でトップニュースになっていた。
140Res/191.07 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
書[5]
板[3] 1-[1] l20