12:名無しNIPPER
2018/05/01(火) 18:13:39.80 ID:NRv/knmj0
朝食を食べ終えると、洗面台の前で歯を磨きながら詢子と他愛もない母娘の会話をする。これもいつもの日課だった。
「でね、和子先生なんだけど今度は上手くいきそうなんだって」
「アイツいつもそう言って上手くいった試しがないからなぁ。もういい歳だし、そろそろ身を固めて欲しいんだけど」
彼女たちが話しているのはまどかのクラスの担任教師である早乙女和子のことだ。
彼女は詢子の旧友でもある。
「和子もそうだけどまどかはどうなんだ? 中学入って告白の1つはされたのか?」
「ええっ!? そんなことある訳ないよ! む、無理だよ私なんて……」
「そうか? もしかしたら隠れまどかファンがいるかも知れないぞ」
「そんなぁ、ないって……」
謙遜するまどかだが、周りのクラスメイトや友達がラブレターを貰っただの告白しただのされただの、そういった類の恋愛話を耳にすることはよくあった。
その度に、少し羨ましいと思ってしまうのも事実だ。
自分に自信がある訳ではないが、もしこれから色恋沙汰に全く無縁で学生生活を終えるというのもいくら何でも寂しすぎる。
詢子はまどかの横顔をチラリと見ると、何本か置かれたリボンの中から一番派手な赤いものを手に取った。
「よし、今日はこれにしな!」
「えー? 派手すぎない?」
「派手なくらいが丁度いいんだよ。アンタは自分からグイグイ行くタイプじゃないんだから、せめて見た目だけでも気を遣って周りに印象付けなきゃ」
「うーん……、そうなの、かなぁ?」
「そうなんだよ」
何の根拠があるのか知らないが、詢子は断言する。
「いいかまどか、恋愛はサッカーと同じだ。自分で立ち位置を考えて動かないといつまでたってもパスは回ってこない。じっとしてても打球が飛んでくる野球とは違う」
「な、何で球技で例えたの……?」
「分かりやすいだろ?」
正直微妙な例えだと思ったが、そんなことを口にするほど彼女は愚かではない。
本人が傑作だと思ったものに対しては、明確な反論がない限り取り敢えず同意しとくのが円滑な人間関係を築く秘訣なのだ。
詢子に言われた通り赤いリボンを身につけ、まどかは支度を終える。
時計を見れば、そろそろ家を出なければ友達と待ち合わせした時間に間に合わない。
「じゃあママ、私先に行くね」
「おう、行ってらっしゃい!」
「行ってらっしゃいまどか」
知久もキッチン朝食の片付けをしながら背中越しに声をかけた。
「行ってきまーす!」
ドアを開けて家を飛び出すと、スッキリとした秋晴れの空が一陣の風と共に出迎えてくれた。
まどかはスカートを押さえつつ、いつもの登校ルートをいつもと同じように足早に駆けていく。
これが、鹿目まどかにとって朝の日常だった。
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