69: ◆PL.V193blo[sage]
2018/04/20(金) 21:19:00.99 ID:NMaauvKO0
「ぐうっ……!!」
殴ったところで、痛みは自分の身に返ってきた。それが、川島をたまらないほどやるせなくさせた。
文久の頃から数えて五年、新選組は本当によく戦ってきた。
たかが五年と言うやつもいるかもしれんが、密度が違う。生死を絶え間なく行き来する毎日は、濃ゆいもんだぜ。
古参隊士はみな幾度もの修羅場を潜って死にぞこなった、一騎当千の強者だ。この戊辰の戦は散々の不利ながら、それでも二度も官軍を破った。それを率いた土方は、世が世なら英雄と呼ばれただろう。
流山で処刑された近藤局長だって、味方をうっちゃらかして一人で逃げ出した公方さまより、よっぽど大将の器だろうよ。
俺らはみんな、世の中の味噌っかすだ。近藤と土方は百姓、沖田は御家人の家来の息子、そういう俺だって、貧乏足軽の次男坊。
みんな負け組だった。生まれた瞬間にそうと決められていた。
どうにもならない貧乏人と小身者が、なにかを変えられるかもしれないと命を懸けたんだ。
心も体も傷付けながら、そんな世の中に風穴を開けたくて、戦い抜いた果てに何とかなると信じて。
「ッ………!!」
声にならぬほどの悔しさが、痛みよりも激しく川島の体を巡った。
殿上人であり和を重んずる会津中将殿が甘んじて朝廷の汚名を被り抗戦に踏み切ったは、身代りとして血祭りにあげられるしかない、我らが下々が忍びなかったからだ。
近藤や土方は俗物だったかもしれんが、幕臣としての矜持を貫こうと命を張っただろう。
ばかやろう、と、川島は叫びたかった。叫んだところで、ずたぼろの落武者であり天下の大罪人であるという現実を、びくとも動かせないのだという事実が、よりいっそう、川島の身体を焼いた。
我が身の進退を呪ったのではない、人間ひとりの健気など無慈悲にさらってしまう黒い大波のごとき得体の知れぬ巨大な力を、川島は恨んだ。
負け組は、負け組のままか。それにしたって運命というは、あんまり意地が悪かろう。
どうにもならぬ。理不尽であった。
殴り付けても動かぬ川島の右足と同じ。太く重く横たわる、ちょっとやそっとじゃビクとも動かぬ理不尽であった。
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