高垣楓「君の名は!」P「はい?」
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57: ◆PL.V193blo[sage]
2018/04/20(金) 21:02:55.46 ID:NMaauvKO0

「泣いておらん」
「泣いております」
「わっちの涙ではありんせん。アンタがちっとも泣かんから、わっちが代わりに泣くの。」

溢れる涙を手の甲を押し当て拭う様は、泣きじゃくる子供のようにも見えた。

「かえちゃんのあほ。辛いとか苦しいとか、なんにもかえちゃんが言わへんから。ひとつも言うてくれへんから、だからわっちが代わりに泣くんよ」

平凡な幸せに憧れて、憧れて、ついに島原の囲いから二度と外に出られぬまま朽ちていく女子は、賽の河原の石ほどおる。
いっそ、この娘がこんなに優しすぎなければ良かったのに。
ほんの少しだけ身勝手ならば、好いた男に抱いてくだんせ、攫ってくだんせとすがり付いて、甘えられただろうに。
そうすれば束の間でも、共に生きることは出来ただろう。
ほんの少し人並みに薄情ならば、過去の男と割り切って、前に進めただろうに。
そうすれば、誰もが羨む女の一生を送れたはず。

「みずき姉さま」

しゃくり上げる天神の頭を、太夫は幼子を慈しむように、優しく両腕で包み、胸に抱いた。

「ありがとう、ござんす。」

うなだれた天神の首筋に落とされた、その優しく澄んだ綺麗な声が、天神には切なくてたまらなかった。

――――かえちゃん、あんたはやっぱり、阿呆や。
天下一の太夫になっても、昔とちっとも変わらん。ぶきっちょな癖に人の世話ばっかり焼いて損する、かえちゃんのまんまや。

お互いを想い合うがゆえに、離れねばならぬ。
好き合ったふたりが一緒に生きることすら許されぬ、そんな世の中なら。
こんな酷い時代に、こんなふたりを生まれさせたのは、なんとご神仏も、意地の悪いことでありんすか。
残酷なことでありんすか。




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