132: ◆PL.V193blo[sage saga]
2018/04/23(月) 22:05:47.06 ID:uqQOtxCi0
もう、血も脂もほとんど出て行ってしもうて、肉体が果つるを待つのみじゃが、中々死に切れぬ。
往生際悪く、この世に留まり続けるは、やはり、心残りがあるからなのじゃろう。
死ぬのは、怖くねえ。
俺は、何のために生きるのかは、はっきり決まっておったから。何のために生くるかと、何のために死ぬるかは、おんなしじゃもの。
惚れた女の為に生きるのじゃから、惚れた女の為に死ねるさ。
俺が怖いのは、おまんが泣きっ腫らしてしまう事。笑えんくなってしまう事。
だから……こればかりは、悔いじゃ。
おまんはきっと、俺を思い出してしまう。
俺がごたるちっぽけな男ば、さっさと忘れてしまえばおまんは幸せになれるけども、たとえどれほど念を押したとて、おまんはきっと、俺を忘れることは出来ん。
俺は、ずっと覚えてたもの。おまんの顔かたち、涙の温さを、片時も忘れたことはなかったもの。おまんの名、楓という名を。
俺ですらそうなのだから、おまんがごたる情の深い女が、忘れよと言うて忘れることなどできるわけがねえと、本当はわかっておった。
目を瞑れば、俺の中にはいつもおまんが居たんさ。
おまんと別れてからもずっと、十の頃には十の姿のおまんが、十五の頃には十五の姿のおまんがいて、再び相見えたおまんは、俺の目の裏側に居ったおまんと、全くおんなし姿であった。
胸の内には、おまんの歌声がいつも聴こえていた。忘れようとしたって、忘れようがねえのじゃ。
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