102: ◆PL.V193blo[sage saga]
2018/04/23(月) 06:50:46.24 ID:uqQOtxCi0
――――その二月の日付の手紙と供に、突拍子も無い千両箱が届けられた時、鯉風太夫はすべてを悟った。
これもまた、唐突な大金の詰まった麻袋の前で、あの気丈な瑞樹天神が泣き崩れる姿、傍らで手紙を持ったまま困り果てるお禿のこずえの様が、すべてを物語っていたから。
「こずえ」
鯉風太夫はこずえの隣にしゃがんで目線の高さを合わせ、こずえに優しげに語った。
「お手伝い、きちんとしてくれておおきにな。瑞樹天神はこったいが面倒みやんすから、こずえはお部屋に戻りなんし。」
瑞樹天神の見たことも無い状態におろおろとしていたこずえが、その言葉で、返事もなくこくりと頷き、たたたっと朱の廊下を走り去った。
「……みずき姉さま」
鯉風太夫が瑞樹天神の肩に掌を乗せると、瑞樹天神はわっと鯉風太夫に抱き着いた。
「お命代や、かえちゃん」
瑞樹天神の体温を感じながら、鯉風太夫の胸に氷の棘が刺さった感触がした。
忍び寄るように早まる鼓動を感じながら、鯉風太夫は、瑞樹天神を宥めるように髪をなでる。
「川島はんが、往ってしもうた。うっとこがなんぼ呼んでも振り返ってくれんところに、もう二度と帰って来てくれんところに、往ってしもうた。」
身を引き裂くような、瑞樹天神の声だった。
その声を耳元で受け止めながら、鯉風太夫は幼子をあやすように、現実感の無い心地で、瑞樹天神の背中をなで続けた。
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