16: ◆ANRdHn0Tts[saga]
2018/04/17(火) 08:31:34.63 ID:3cTkaN/s0
「せっかくですから、少し身の上話をさせてください」
「……どうぞ」
どうせ、結論は何パターンかしかないのだ。いい機会だから、言っておきたいことがいくつかあった。
「子どもの頃、姉は我が家のアイドルでした……比喩ではなくね。休みの日の朝、変身モノのアニメの後が、姉の定例ライブ。僕は観客で、そのアニメの主題歌をよく聴かされていたものです」
小学生になる前のことだ。その頃から、姉さんはアニメとアイドルが大好きだった。周りの子どもたちと、同じように。
「パン屋さん、消防士、野球選手……あの年頃の子どもがみんなそうであるように、姉は魔法少女になるんだと信じていたし、僕は宇宙飛行士になるんだと思っていた」
そして僕は、大勢の子どもたちと同じように、少しずつこの世界のことを知っていった。自分の適性だとか、限界だとか。そんなものの影響で、夢の内容は軌道修正されていく。
「確か、姉が七歳の時です。母が姉を、ずっと行きたがっていたアイドルのライブに連れて行ったんです。帰ってきたのを祖母と出迎えた時の、姉の熱狂っぷりを今でも覚えています。私、絶対アイドルになる! ってね」
そうして、僕と姉さんの人生は少しずつズレていく。
高校生になった姉さんが、東京で一人暮らしをするための貯金をしていることを。両親には内緒に、オーディションに応募していることを、僕は知っていた。知っていたけれど、僕は何もしなかった。僕は僕で、現実ってやつと戦うのに必死だったから。
「高校の進路希望調査で、本当に『アイドル』って書いたらしいんですよ。三者面談が終わった日は、そりゃあもう大騒ぎ、家族会議です。父さんは怒鳴るわ、姉さんは目を真っ赤にして反論するわ……僕は多感な時期でしたから、勘弁してくれよ、と思っていましたね。結局両親が根負けして、卒業と同時に姉は実家を出ましたけれど」
父さんも母さんも、そして僕も、どうせいつか諦めて……夢破れて帰ってくるのだろう、と思っていた。応援はしていたけれど、アイドルになる夢を叶えることができる人間は、一握りであることもなんとなくわかっていた。
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