15: ◆ANRdHn0Tts[saga]
2018/04/17(火) 08:30:42.91 ID:3cTkaN/s0
「……すみません。てっきり年上なのだと」
「いいんですよ、昔っからよく間違えられていましたから。中学の頃から変わらない上にあの性格なもんだから、高校の時なんかは妹に世話を焼かせるダメ兄呼ばわりされたものです」
促されて、僕はソファの対面に腰かける。おそらくは秘書かなにかなのだろう、蛍光色のスーツを着た女性が紅茶をテーブルに用意してくれた。
「それでは、さっそくですが」
テーブルの上に、件の記事が広げられる。事情を知らない人が見れば、仲睦まじい恋人にも、生徒をたぶらかしているクズ教師にも見えないこともない写真。
週刊誌の記事の当事者になるのはこれが初めてだけれど、なかなかに不愉快だった。駅で待ち合わせをしスーパーで買い物をし、しばらく僕の部屋で一緒に過ごし駅まで送っていった、という事実に、週刊誌好みの憶測がフレーバーとしてふりかけられている。誌面の全部がこうなのかと思うと、頭が痛い。
「ウチのコンプライアンス部はそれなりに優秀です。彼女から『恋人ではない』という話は聞きましたから、既に事実無根の飛ばし記事であるというプレスリリースを出しています」
「……信じたんですか。本当に恋人じゃないって証拠もないのに、姉さんの話を」
「信じますよ。彼女のプロデューサーですから」
あまりに自信満々に言うものだから、僕はうろたえた。その反応に気づいてしまったのか、彼は照れ気味に頭をかいた。
「いや、今のは半分本気てすが、半分は冗談です。半年もプロデュースしてるとね、さすがになんとなくわかるんですよ。彼女が何かを誤魔化したり、取り繕ったりしてる時っていうのは」
報道を否定したときの彼女にはそれがなかった、と彼は語った。その様子に心当たりはあったから、僕もそれ以上は追求しなかった。
「まあ、私は信じましたが、問題はファンへの対応です。写真の男性が肉親であるのなら話は早い……と、本来であれば言いたいところなのですが」
そこまで言って、彼は言葉を濁す。それはつまり、僕が今日この場に呼ばれた理由。
「恋愛報道を打ち消すために年上の弟なんてものを出してしまうと、逆にアイドルとしての姉が死にかねない、ということですね」
「……理解が早くて助かります」
今までウサミン星人、なんてキャラで売り出してきて、せっかくそのキャラがお茶の間にも浸透してきたところで、実は地球出身で、弟が……なんて言い出すわけにもいかないのだろう。今更そんなネタバラシをされたって気にする人は少数かもしれないけれど、少なくとも姉さんにとって、それは深刻な問題のはずだった。
そもそも、誰もウサミン星なんか信じちゃいないだろう……そうかもしれない。
いい機会だし、売り出し方を変えてもいいんじゃないか……それが最善なのかもしれない。
けれど僕は、あの満月の下で……姉さんの見ている世界に触れてしまった。
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