71: ◆tues0FtkhQ[saga]
2018/03/31(土) 12:38:55.52 ID:X17K8DuQ0
ポップにアイドルらしくアレンジされたメロディが、忍の姿を追いかける。
忍は軽々と柔らかくステップを踏んで、それからマイクを握り直した。
歌うことに、伝えることに集中するためか、振り付けはほとんどなかった。
だからこそ、その一言、一言に素直な心がこもっているような気がする。
観客もそれを感じ取っているのか、ただ静かに歌声に耳を傾ける。
だんだんと振りの合っていくサイリウムの中で、僕はひとり感情の行き場を探していた。
どうしてこの曲なんだ。きっとたまたまだろう。
そんな理性を叩き潰すかのように、身体はだんだんと熱を持つ。
一緒に練習を繰り返した日々が、夢を応援できなかった瞬間の沈黙が。
そして、恋願いを込めたこの曲を手渡したあの日がフラッシュバックする。
忍は本当に夢を叶えたんだ。
今更になって湧き上がってくる実感は、堰を切ったように瞼の裏から涙を溢れさせる。
ピンクの光がきらきらと雫に写って視界を一色に染めていく。
まだ、もうちょっと我慢してくれ。
必死に目元を拭って目の前の光景を焼き付けようとする。
すべての感覚をあいまいにさせたくなかった。
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