69: ◆tues0FtkhQ[saga]
2018/03/31(土) 12:37:07.92 ID:X17K8DuQ0
「はぁっ……みんなー!」
「残念だけど残り2曲で最後になっちゃった、アタシはもっと歌いたいんだけどね」
残念がるような声と小さな悲鳴が会場中に響き渡った。
そんな観客席の反応も笑顔に変えて、忍はそっと立ち位置を確かめる。
それから静かにこう語りだした。
「ちょっとだけ休憩も兼ねて、聞いてほしいことがあるんだ」
急に忍が真剣な顔になったことで、あっという間に会場に沈黙が広がる。
照明が落ちて、忍がそこにいることを示すたったひとつのスポットライトだけが残った。
「アタシね、昔アイドルになりたいって言ったとき、両親にも友達にもみんなに反対されたんだ」
「だから、アイドルの夢を誰にも応援してもらえなかったと思ってた」
「でも、そうじゃなかったんだよね」
「アタシが怖いのと同じように、背中を押す方も怖いんだってやっと分かったの」
「誰もバカになんかしてなくて、ただ心配してくれてたんだって」
忍の声がだんだんと掠れていく。小さく身体が震えるのが遠くからでも分かる。
泣かないで。そんな声があちこちから飛び交って、忍はぶんぶんと頭を振った。
「な、泣いてないよっ。ちょっと昔のことを思い出してだけなんだからっ」
「それでね、アタシの夢は、いろんな人の心配や応援で叶って、これからも続いていくんだって思うの」
「アタシは、このステージでそんなみんなに何か恩返しがしたい」
「昔のアタシにも届くようなそんな唄を送りたいんだ」
会場が再び沸き立つ。みんながペンライトを振って、頑張れの大きな声が木霊する。
静かな語りと対照的に、次の曲への期待がふつふつと高まっているのを空気で感じる。
77Res/84.74 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
書[5]
板[3] 1-[1] l20