63: ◆tues0FtkhQ[saga]
2018/03/31(土) 12:30:21.65 ID:X17K8DuQ0
昼前の街は騒々と、少なくない人が僕の横を通り過ぎていく。
それでも僕の世界は、あの瞬間のまま止まっていて。
世界中にひとりだけみたいだなぁなんて小さくこぼした。
いなくなってしまった君を想って、顔を上げる。
空は雲ひとつなくて、春風がきっとあの山の向こうまで来ているんだと思う。
ただ、ドラマみたいにはいかなくて、青い春は少し間に合わなかったみたいだ。
ぼんやりと現実を認識する。
あぁ、僕は好きだった子に振られたんだなぁ。
好きだと言えずに、言う機会も勇気もないままに。
大好きだった女の子には、もっと大切にしたいものがあった。
たったそれだけのことなのに、まだちゃんと自分の中で受け入れられていない。
きっと春に向かって雪が溶けていくように、ゆっくり、ゆっくり心に溶け出していくんだろう。
それでも言葉にできなかった悔しさは、ずっと傷跡のように残るのかもしれない。
もしどこかで歯車が違う噛み合い方をして、想いを伝えることができたなら。
色気も男の影もなくて、汗水垂らして倒れてる方が似合ってる女の子はどんな顔をしただろうか。
慌てて、顔を真っ赤にして、半分くらい怒って、ちゃんと断ってくれたかな。
忍は、いつものようにただまっすぐ夢に向かって歩いていくのが似合ってる。
そのためにこんな気持ちみたいな、余計なものはきっといらないのだ。
悔しさなのか寂しさなのか、涙が溢れ出しそうになって、慌てて目を擦る。
気を紛らわすために、大好きな唄を、旅立つ君に歌った唄を口ずさむ。
『目に浮かぶ照れた後ろ姿に 会いたいな』
さっき泣きそうだったろう。
どんだけ一緒に顔を突き合わせたと思ってるんだ、バレバレだよ。
なぁ、いま、どこで、どんな気持ちでいるんだ?
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