50: ◆tues0FtkhQ[saga]
2018/03/31(土) 12:17:03.98 ID:X17K8DuQ0
だから、扉がそっと開いた音はやけにはっきりと聞こえた。
この部屋に用事がある人はたったひとりだけだ。
振り返るとほぼ同時に待ち望んた人の名前を呼ぶ。
「忍っ」
瞳に映った忍は、少し大きめの鞄を持って、しっかりと私服を着込んでいた。
まるでこれからどこかへと行ってしまうかのように。
忍は身体が言うことを聞いてくれないとばかりに目線をあちこちに逸して。
誤魔化すために片手で髪をいじったまま、ぼそりと呟いた。
「あの……その。……ごめん」
僕は、その「ごめん」にいろんな想いが混じっているんだと気付いた。
喧嘩してしまったこと、音楽室に来なくなったこと、きっとそれだけじゃなかった。
なんで制服じゃないんだよ。なんで旅行でも行くような格好なんだよ。
いつも通りの格好で、いつものように現れてくれたら良かったのに。
その声色は、会えなくなった理由と、忍の性格と、あっさりつながってしまった。
「忍……まさか」
「……」
忍は何も言わない。
それは、黙っていたいというよりも、何を言うべきなのか分からないという顔をしていた。
永遠にも感じられる沈黙の後、ぽつり、ぽつりと答え合わせが始まる。
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