工藤忍「おかしなうさぎは夢見て跳ねる」
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4: ◆tues0FtkhQ[saga]
2018/03/31(土) 11:32:29.11 ID:X17K8DuQ0


 だいたい1年前。
 入学してきた時に軽音部を選んだのは、音楽しか自分にできることが思いつかなかったから。

 小さい頃、親父に譲ってもらったアコースティックギターは宝物だと思っていた。
 子どもが憧れる不思議のパワーや才能のように。おとぎばなしに出てくる勇者の剣のように。
 そんな期待と興奮が、自分が六弦で鳴らす音にだってあるはずなんだと。

 無限大に広がっていたはずの未来は、気づけば分かりやすくしぼんでしまっていた。
 自分にだってこんなぬるい泥沼から抜け出す力があったなら。
 そんな淡い夢を思考の隅に追いやって、今日まで淡々とピックをはじいてきた。

 こんな場所で壮大な夢も何もあるもんか。
 今日も電波の向こうでは、同い年の都会の奴らが、眩しい煌めきを存分に放っているというのに。

 窓の外のどんよりした厚い曇り空は、どうにも思考まで暗くさせるような気がする。
 今日はちょっとでも明るい曲を練習しようと、音楽室の近くまで来たところで立ち止まる。


 聞こえるはずのない歌声が聞こえた。


 これだけ離れていてもよく通るその声は、お世辞にも上手いとは言い難かった。
 それからキュッ、キュッとシューズの擦れる音が聞こえてくる。

 扉の硝子から覗いてみると、どうやら歌いながら踊っているらしい。
 ところどころステップが踏めていなくて、なんだか酔っぱらいみたいに背中がふらふらしている。
 こいつは一体何をやっているんだろうと思ったところで、やっと気づいたことがあった。


 見知らぬ女の子がそこにいる。


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