7:1[saga]
2018/03/20(火) 21:12:13.62 ID:NiGcwUvh0
5.
「アイスがそんなに珍しいですか?」
二段アイスにがっつく平沢先輩を横目に、私はちまちまと山を崩していった。
「え、うんん、アイスはいつも食べてるよ」
ぎこちない笑顔。どこかすごくよそよそしい。
「友達と来るのが……初めてだったから……」
平沢先輩は言い終わってから、あっと口を押さえて、
「ご、ごめん! 勝手に友達だなんて言って。馴れ馴れしかったよね」
「え、いえ。そんなことないですよ! 私は平沢先輩と友達になれたらすごい嬉しいです!」
恥ずかしいことを言った。そうでもしないと、先輩がなんだかもっと離れて行ってしまうと思ったから。
「ほんとに?」
先輩の不安そうな目。私はそんな目を見て、冗談交じりに自信満々に言った。
「もちろん。私は嘘をついたことがありませんから」
「そっか……」
つっこんではくれなかった。私には残念ながら、先輩がどんな顔をしているのかが見えなかった。
子供のころ、今より小さなころ。私はこの人に憧れた。憧れて、あの演奏に心を奪われた。その人が隣にいる。ちょっと贅沢で、とても幸せだった。
「唯で、いいから」
「はい?」
先輩は顔を真っ赤にして、下を向く。
「私の呼び名。唯でいいよ」
「唯、先輩……」
春の風だった。私の心を吹き抜ける。
「じゃあ私のことも、名前で呼んでください」
先輩と目が合う。ああそうか、と私は照れ笑う。
「私は一年の、中野梓です」
精一杯の春盛り。
私はあなた、唯先輩を見つけた。
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