唯「四月は君の華」
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52:1[saga]
2018/03/24(土) 22:30:19.05 ID:N9NZ/oAL0
44.憂side 同時刻

憂「最近有馬さんの調子はどうなんですか?」

私は淹れたお茶をみんなに配りながら、椿さんに尋ねた。

椿「絶好調だよ。CM契約の話も出てきたし、先週だってバラエティ番組に出てた。映像見る?」

憂「あ、見たいです!」

椿さんはノートパソコンを取り出し、大量の動画ファイルの中から一つ選び出し再生した。

有馬さんは音楽に関するバラエティにゲスト出演していた。有馬さんの隣に座っているきれいな金髪の女性は、有馬さんの元生徒でありライバルの1人である相沢凪さんだ。

憂「お姉ちゃんはこの2人の演奏を聞いてから、すっごい楽しそうにピアノを弾くようになったの」

叩き込まれた基礎。五線譜の常識。

感情の介入より先に正確な音の入力を優先されていたそれまでとは、お姉ちゃんの中の価値観は変わっていった。

しばらくのトークの後、有馬さんと凪さんの連弾が続いた。パソコンの音質が悪く、凄さが伝わってきにくかったけれど、会場の雰囲気からも凄い演奏だったというのがわかる。

純「椿さん、こんなにたくさん動画撮ってるんですね」

椿「まあね、私はこういう感じの仕事してるから、仕事の延長って感じかな。有り体に言えば趣味!」

有馬さんのことが大好きなんだろうな、と私は微笑ましく思った。

椿「昔の映像もあるよ。例えば……」

椿さんはよくタイトルを見ずに再生ボタンを押した。

椿「あっ……」

そこには藤和音楽コンクールの文字が見える。舞台袖から有馬さんと、凪さんとは違う、バイオリンを持った金髪の少女が現れた。
2人とも中学生くらいの年齢に見える。

憂「これは……?」

椿さんは少し気まずそうに、

椿「バイオリンのコンクールだよ。これは、公生が3年ぶりにピアノを弾いたコンクールでもあるんだ」

椿さんは懐かしむような目で、画面を撫でていた。

椿「この子は、宮園かをり。この子が、唯ちゃんみたいに障害を持って、梓ちゃんみたいに単調な演奏をしていた昔の公生を変えたんだ。公生の初恋の人だよ」

演奏は私から見てもめちゃくちゃ。演奏中断までしてしまっている。
しかし二人は弾き直し、有馬さんは生まれ変わる。競い合うような音が、いつしか観客を魅了していた。

椿「何ヶ月か前の唯ちゃんと梓ちゃんの演奏聞いてたらね、このコンクールを思い出したんだ。公生も多分同じで、だからあの2人をよく気にかけてるんだと思う。亡くなったかをちゃんを、思い出させられるんだと思う」

私は有馬さんの目を思い出していた。有馬さんは優しいような、どこか懐かしむような目をしていたのだった。



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