唯「四月は君の華」
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44:1[saga]
2018/03/24(土) 22:05:29.00 ID:N9NZ/oAL0
36.梓side

有馬さんが初めて唯先輩と会ったのは、今から8年ほど前。有馬さんがレッスンをつけていた相沢凪さんと連弾をした学園祭の日。

「あの時はびっくりしたよ。5歳の女の子が泣いてピアノ教えてって頼んできたんだから」

それから唯先輩は有馬さんを「有馬先生」と呼び、よくピアノの練習を見てもらったそうだ。たまたま有馬さんが進んだ高校が唯先輩の家の近くにあり、唯先輩はよく有馬さんの家に押しかけていた。

「唯ちゃんは本当に感性豊かな子でね、僕が教えてもらうことも多かったよ。僕はピアノの基礎の技術を教えてあげて、できるだけ唯ちゃんがその感性を表現できるようにしてあげたんだ」

有馬さんは少し申し訳なさそうに、

「でも、あの子が学校でいじめられるようになってから、僕のところにあんまり来なくなって、ピアノもあまり練習しなくなったみたいなんだ。ピアノの音も、感情が抜け落ちて技術が残ったせいで、以前の僕みたいに単調になっていった」

『ヒューマンメトロノーム』

それが以前の有馬さんのあだ名だった。唯先輩もあの事件が起きた演奏会の時には、それに近い演奏をしていたそうだ。

「久しぶりに唯ちゃんがピアノを弾くって聞いて、僕もあの子の発作のことは知ってたから、同じような障害を持ってる身としても心配だったよ。実際見ててハラハラした。でもね、」

有馬さんは偽りなく嬉しそうに笑った。

「あの演奏会は、希望の光に満ちていた。唯ちゃんが楽しそうに笑っていた過去の演奏に繋がるものを、僕は見れた」

唯ちゃんの視線の先にはね、と有馬さんは言って少しの間、持っている本に目を落とした。有馬さんは本の表紙を撫で、

「君がいたんだ。紛れもなく、ど真ん中に、君がいたんだ」

「私、は……」

唯先輩の月になりたかった。いつも夜空で見下ろす、唯先輩が寂しくなった時に見上げればいつもどこかにいる、唯先輩の一つだけの光になりたかった。

「唯先輩の特別に、なれるでしょうか」

「もちろん」

有馬さんは優しく笑って、

「星は、君の頭上に輝くよ」

有馬さんは大人の大きなきれいな手で、私の頭をなでてくれた。



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