【バンドリ】氷川日菜「あまざらしなおねーちゃん」
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57:名無しNIPPER[sage]
2018/03/01(木) 09:14:23.44 ID:ueeqel/10

2月28日

 今日は羽沢さんと向き合うことが出来た。

 正直に言えば怖かった。帽子も被らず、彼女の顔を見るのがまだ怖かった。

 帽子を被るべきか未練がましく悩んでいると、扉越しに日菜が大きな声を出しているのが聞こえた。

 その能天気な声を聞いていると、無駄に難しく考えていた自分がバカみたいに思えた。

 
 ……よく考えれば、隣には絶対に日菜がいてくれるのだ。

 あの子には絶対に言わないが、そう思うだけで私は今までよりずっと強くなれた気がした。

 だから、羽沢さんともしっかり向き合うことが出来た。そして、今までの非礼を詫びて、お礼を言うことが出来た。

 しかし、なんだろうか。羽沢さんと話をしていると前にもこんなことがあったような気がしてくる。

 これが忘れた記憶のせいなのか、彼女の持つ雰囲気が私にそう思わせるのかは分からない。

 ただ、悪い気はしなかった。……今はそれだけでいいと思う。

 また、日菜と羽沢さんにもロゼリアの前で演奏する、ということを話した。

 それを聞いた日菜は意気揚々とライブハウスを押さえてロゼリアのメンバーを誘うと言ってくれた。その言葉に素直に甘えてしまった。

 まったく、私はあの子に頼ってばかりだ。記憶が戻ったらもっとしっかりしないといけない。いつまでも日菜に世話をかけさせていては駄目だ。

 ライブの――いや、ライブというべきものなのか分からないが、とりあえずは便宜上、ライブの開催は来週の水曜日に決まった。

 演奏するのは1曲だけだから、別に期間が短いとは思わない。その曲も、最初は難しいかと思ったが羽沢さんの協力を得られて、なんとか出来そうだ。

 しかし……それにしても羽沢さんには頭が上がらない。

 私を見つけてくれただけでも感謝のしようがないくらいのことなのに、今日から1週間、また私のわがままに付き合わせることになってしまった。

 それでも彼女は笑顔で「紗夜さんの力になれるならなによりです」と言うものだから参ってしまう。

 どうすれば羽沢さんに報いることが出来るだろうか。これも記憶が戻ったら最優先で考えなければいけない。

 ……ともあれ、先のことは先のことだ。

 今は目先にある明確な目標をクリアするのが優先事項だ。

 ただ、これで本当に記憶が戻るのかは分からない。

 不安は多い。だが進むべきだ。

 今はまだ、将来も未来も視界不良の道半ばなんだ。

 目の前にあるのは記憶をなくした氷川紗夜の分岐点。行くか戻るかの分岐点だ。先は暗く見えないが、進まなければいけない。

 もし上手くいかなかったら。考えるだけで気分が重くなる。吐きそうだ。

 それでも、日菜と笑い合えたこの日々も、失くした日の痛みも、私は肯定する。

 どこかに忘れ物をしたから、それを探しに行くんだ。

 先がどうなるかは分からないが、私の旅は決して孤独なんかじゃなかった。

 もしかしたら私を待ち受けるのは、美しき思い出ではなく悲しき思い出なのかもしれない。

 でも大丈夫だ。どうなったって、きっと隣には日菜がいてくれる。

 だから私なりに頑張ってみよう。


 
 結果がどうなろうと、この日記を書くのは今日で最後にしよう。

 ここが私の終わりで始まりだ。


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