72: ◆Xz5sQ/W/66[saga]
2018/03/11(日) 23:01:37.03 ID:h206M/Hho
だがなにも、涙を流す可能性があったのは海美一人だけではなかったのだ。
男は度胸。差し出されるままパクっと一口食べた瞬間、P氏は思わず落涙する。
これは一体何事か? 蜂にでも刺されたようにまたまた腰が痛んだのか? 思ったより料理が熱かった?
違う。ならば献身的な海美の介護に感激の証で流したか?
もぐもぐもぐと咀嚼しながらP氏は海美と目を合わせた。
案の定、この不憫な少女は不安げな面持ちで味の感想を求めている。
「……海美、海美。一つ訊きたい。このエビチリ天津飯なのだが」
「な、なに? ……何でも聞いて!」
「君、味見はちゃんとしたかい?」
「した! エビチリスッゴク赤いよね!」
「オムレツの方も味見したかい?」
「した! ほんのちょこっとだけ……ううん、結構だいぶ、焦げてるよね……!」
「……いやいや海美。見た目は問題にしていない。
むしろこうまで不格好だからこそ、一生懸命に仕上げようとした努力も分かって好評価」
「ホントに!? うれしーっ!」
「ただね、海美。そう無邪気に喜ぶより先に、俺は教えて欲しいんだよ。
君がキチンとこのエビチリ天津飯の味見をしたのかどうかをだ」
そう、不憫な海美には是非ともそこを訊きたいのだ。
もう少し詳しく尋ねるなら、一体全体どうやれば餅のような食感のオムレツを焼き上げることが可能であり、
炎のように赤いぷりぷりのエビを落雁の如く甘くして……にも関わらず、ソースは鬼のように辛いまま仕上げられるのかということを。
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