54: ◆Xz5sQ/W/66[saga]
2018/03/06(火) 00:29:00.48 ID:AWCgvPWLo
チャイムは押したというのにだ。
未だ扉は閉ざされたままであり、人が出て来る気配もやはりない。
手術や心中の可能性は限りなくゼロに近いとして、
コンビニにでも行っていると考えるのが現実的な解答だろう。
それでも奈緒は手詰まりに陥った刑事のようにガシガシと頭を掻きむしると。
「でもな〜、居留守の線も捨てきれんし。こうなったら出るまでチャイムを連打して――」
「ダメだよ奈緒ちゃんそんなことしちゃ! ご近所さんにも迷惑でしょ」
「せやけど美奈子〜。合鍵持っとったりせえへんの?」
「どうして持ってるなんて思うかなぁ」
呆れたように美奈子は言い、少しの間考えてから彼女は奈緒にこう返した。
「……けど、いつまでもこうしてばかりいられないし、一度ウチのお店に帰ろっか。
もしかすると、プロデューサーさんから出前の注文がかかるかも」
「……海美はどうするん? 連絡つかへんけど」
「それもウチに来てたりしないかな? 電話に出ないのだって、
移動中で気づいてないだけだとか。……ほら! そろそろお腹も減る頃だし」
「せやのうても、向こうも私ら探して美奈子の店に、か。……ありうる」
結局、悪い方にばかり考えていてもしかたないという美奈子の意見を受けた奈緒は、
己の食欲とも審議した結果、この場を一旦引き上げることにしたのだった。
「そういや私もお腹空いて来たな〜……。サービスあるん?」「勿論だよ!」と、
遠ざかっていく二人の会話を鉄の扉越しに訊いていた、
死にかけている男の存在にはとうとう最後まで気づかずに――。
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