17: ◆Xz5sQ/W/66[saga]
2018/03/01(木) 20:55:20.71 ID:1Dz8wOupo
「あによ、兄ちゃんまァた来たんかい」
この船頭の記憶が正しければ、目の前の男は今年に入ってから早くも四度目となる訪問である。
青白く痩せた不健康な肌、額に角を生やした一つ目の船頭は咥えていた煙管の灰を落とし。
「今度はあに? 踏み台の刑け?」
「いえ、本日は桃子関係では無く勢い余った不慮の事故です」
「ほォうかい。兄ちゃんはよくよく死に目に縁があんなァ」
薄紫に晴れ渡る空を見上げるとカカカと笑って膝をうった。
ここは地獄に数ある渡し口、川流れ三途の桃源渡りは四九八区。
ほんの二か月ほど前にはP氏がアイドルたちを連れて慰問ライブに訪れたあの世とこの世の境である。
が、今回は仕事で来てはいない。P氏の魂だけが迷い込んだと表現するのが正しかろう。
彼は気の良い船頭から現世帰りの札を受け取ると、
恐らくは人の世で生死の狭間を彷徨っているであろう己の肉体を思い浮かべて額にお札を張り付けた。
船頭も別れは今よとにこやかに片手を振っている。
「モーモコ様にもよろすくなァ〜」
これぞまさしく地獄の沙汰もファン次第。
札付きP氏が船頭に頭を下げたのと彼の意識が戻ったことを海美が確認したのは殆ど同時のことであった。
開眼、今、触れんばかりに近づけられていた唇僅かに三センチ。
この世の物ならざる奇声と共に気絶したP氏を緊張した面持ちで覗き込んでいた海美だったが、
彼女は唐突な氏の覚醒に戸惑い驚き頬を赤らめると慌てた素振りで顔を離す――皆様は人工呼吸をご存知か?
詳しくは人が外的ないし内的要因によって意識不明となった時、
自力では困難となった呼吸を周囲の人間が補助する行為のことである。
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