12:名無しNIPPER[saga]
2018/02/17(土) 18:02:55.97 ID:rPbMqZ0L0
彼女は絵を描いていた。
あんなに、描けないと言っていたはずの。
すらすらと、脇目も振らずに、ただまっすぐ目の前の紙に鉛筆を滑らせるその姿からは、以前彼女が語っていた"恐怖"は一切見受けられなかった。
どんな魔法を使ったんだ、と胡依先輩を振り仰ぐと、彼女はふふんと胸を張って親指を突き立てた。
こちらからは何を描いているのかは窺い知れなくて、けれど、東雲さんが描いているものなら、きっといいものなのだろう。
時折手が止まると、先輩が落ち着いた声音で「大丈夫?」と声を掛け、それに対して東雲さんは「大丈夫です、ありがとうございます」と柔らかな微笑みを返す。
こういう会話を四、五回していた。
もはやこの時点で驚きはかなり大きいものだったが、それでもまだ、ほっとした気持ちの方が強かったように思える。
あまりの衝撃でメーターが振り切れてしまったのは、さて自分の作業に戻ろう、と身体の向きを直そうとした時だった。
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