33: ◆TOYOUsnVr.[saga]
2018/02/08(木) 02:07:42.43 ID:1k4n5Mtx0
○
男は手渡された書類を見て、一言二言トレーナーと話したあとで、アタシのもとへとやって来た。
「北条さん」
「…………何」
「実はですね。俺が君の担当プロデューサーとなることが本日、正式に決まりました」
「で? アンタがアタシをアイドルにしてくれるって言うの?」
「それは違う。北条さんはもうアイドルだからね」
「はぁ? ファンもいないってのに何を……」
「いますよ。ここに」
自分が最初のファンだとでも言いたいのだろう。
大人が真顔でそんなことを宣うものだから、あまりにも滑稽で笑ってしまった。
「あ、えっと……プロデューサーはその担当アイドルの最初のファン、なんて話はこの業界ではよくあるものなんだけどなぁ」
ギャグを言ったと勘違いされたと思ったのか、男は自身の発言に説明を加える。
「あのとき財布を落とした北条さんを咄嗟にスカウトしてしまったの、一目惚れみたいなもので」
わたわたと補足を続ける男の言葉を嘆息で断ち切って、アタシは口を開く。
「でも見たんでしょ? 測定結果」
「ええ」
「メッキ、剥がれちゃったね。どう? 幻滅した? 見た目に騙されて欠陥品掴まされたと思ってるんでしょ?」
これ以上ないくらいの悪態をついて、半ば睨むように男に視線を投げつけた。
しかし、返ってきたのは笑い声だった。
「なんだ」
男は、あっはっはと大笑いしながら言う。
「そんなことか」
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