14:名無しNIPPER[sage saga]
2018/02/03(土) 00:26:01.17 ID:vBuyWfgt0
しかし、ボクはひとつの偶像として、それを表に出すことは出来ない。ファンの皆の夢を壊すのは、ボクとて本意ではない。
「……そうだな。まだ確定はしていないが、少なくともこのシンデレラ城の階段を降りるつもりはまだ無い、と言っておこうか」
「それでは、進学されても引退はなさらない、と」
15:名無しNIPPER[sage saga]
2018/02/03(土) 00:26:45.36 ID:vBuyWfgt0
「それでは、本日のインタビューはここまでとさせて頂きます。二宮さん、お忙しい中ありがとうございました」
「どういたしまして、此方こそ」
最後に握手を交わし、去っていく彼女達の背を見送る。
16:名無しNIPPER[sage saga]
2018/02/03(土) 00:27:45.92 ID:vBuyWfgt0
「おはよう、プロデューサー」
「お、終わったか。お疲れ様、飛鳥」
ボクが部屋に入ると彼はキーボードに向かっていた手を止めて、いくつかの書類をまとめボクをソファへ促した。
17:名無しNIPPER[sage saga]
2018/02/03(土) 00:28:44.25 ID:vBuyWfgt0
「来年度の活動、お前はどうしたい?」
「……まだ、理解らない。まだ辞めるつもりは無いけれど、このまま惰性で続けていくことも善いとは思えないんだ」
「……そうか。俺としては、折角大学に行くんだから思い切って学業に専念するのも悪く無いと思うけど、急いては事を仕損じる。まぁ、受験が終わるまでにゆっくりと考えればいい」
18:名無しNIPPER[sage saga]
2018/02/03(土) 00:29:31.73 ID:vBuyWfgt0
彼は朗らかな笑みを浮かべると、デスクへと戻り再びPCへ向かい始めた。ボクは手持ち無沙汰で、事務所の仲間達が出ている雑誌をなんとなく開いてみた。そこには最早お子様と笑えぬ程に成長したビートシューターの二人が大きく取り上げられていた。共に過ごしたオーストラリアでの日々が、遥か昔のように感じられる。
「なぁ、プロデューサー」
「どうした?」
19:名無しNIPPER[sage saga]
2018/02/03(土) 00:30:18.58 ID:vBuyWfgt0
時計の針が、ボクを急かすようにうるさく時を刻む。読んでいた雑誌をテーブルに置くと、自分の手が僅かに震えていることに気づいた。ボクはそれを隠すように、エクステの端を指で弄ぶ。
「……虚勢(うそ)だよ、そんなものは」
「悩み事、か?」
20:名無しNIPPER[sage saga]
2018/02/03(土) 00:31:03.48 ID:vBuyWfgt0
「……前にも言っただろう。直観だよ。理由なんて無い。ティンと来たって奴だ」
「ただ黄昏の公園で口笛を吹いていただけの子供にかい」
「ああ」
21:名無しNIPPER[sage saga]
2018/02/03(土) 00:31:51.95 ID:vBuyWfgt0
気付いていた。気付かない振りをしていた。
彼がボクの仕事へ同行することが減り始めたのはいつからだっただろうか。成人組に監督を任せることもあったが、一人で向かうことも増えていった。打ち合わせ以外での会話は稀になり、コーヒーブレイクを共にすることも無くなっていた。
まるで彼が、ボクを怖れて逃げているかのようにさえ、思えた。
キーボードを打つ手が止まる。
22:名無しNIPPER[sage saga]
2018/02/03(土) 00:32:22.54 ID:vBuyWfgt0
「お前を信頼しているからだ。飛鳥なら、一人でも大丈夫だろう?」
そう、騙った。
23:名無しNIPPER[sage saga]
2018/02/03(土) 00:32:50.36 ID:vBuyWfgt0
あぁ、そうじゃない。そうじゃあないんだ。
ボクが欲しい言葉はーー
「……キミは、いつもそうだ……」
24:名無しNIPPER[sage saga]
2018/02/03(土) 00:33:30.54 ID:vBuyWfgt0
「キミは……キミは!いつだってそうやって一歩退いて己を隠してしまう!傍観者のつもりか!?それとも愚か者に助言を与える賢者か!?どうして…どうしてボクの隣にいようとしてくれない!!」
決壊した心から溢れ出した感情が、怒鳴り声となって撒き散らされる。抑え込むことも出来ず、激情のままにテーブルを打ち叩き立ち上がる。デスクに積まれた書類の山を左手で叩き潰しながら、右の手で彼のネクタイを掴み、犬歯を剥き出しにしてただ只管に叫んだ。
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