60: ◆L3c45GW7tE[saga]
2018/01/05(金) 23:23:38.44 ID:6rZ5mY140
深呼吸。ミスするな。今は渡すだけでいいんだ。
俺は髪を整えて、闇のコートを調節して、口の中の息を強く吐いて追い出した。
冷たい空気が染みる。この漆黒の深淵の夜空の、俺の属性に似た小さくて大きな世界の中で。
勇太「まずは渡したいものがあるんだ……。もうとっくに見ただろうけれど」
勇太「はぁ……。すぅ……」
勇太「受け取ってください!」
俺は、前に両手に持って指輪の入った箱を差し出した。
六花の大好きで、今も大好きな、見せたかった白と黒色の指輪。
白い蝶の模様の縁取りで、蝶の体の中心から縦横に十字架が重なっている。
その蝶の体の真ん中と十字架の交差するところに、小さな赤い宝石が点一つある。
内心恐怖と期待が止まらない。
だけど好きっていう気持ちがそれを上回った。
世界を改変した男だ。六花を守れるならなんでもする。
六花「……」
六花は言葉を発しなかった。無言の人の象徴らしく最後を飾った。
その代わり冷たく小さい手が俺の箱の下の手を握って。
そして俺の手を抱くように大切に柔らかい掌で挟んだ。
それが、サインであると、俺は気づいた。
六花は、涙をこぼしていた。顔が赤くなっていた。
そして六花は箱ごと自分の胸の中に抱いて持って行った。
六花の顔が笑った。大きく。嘘偽りない、白昼夢で見た、青空のように。
六花「つけていい?」
子供と大人の混じったような嬉しい声が印象的だ。
勇太「ああ」
六花「えっと、薬指……」
六花は箱を肘で持って、指輪を右のほうに……。
勇太「ああ!違う!」
台無しじゃんか!ああここまで必死にやったのに!
勇太「これは左の薬指のほうにはめる」
六花「ほうっ」
勇太「よくよく考えればこれ彼氏がつけさせるものだよな」
六花「ミスったねゆうた」
勇太「うるさいっ!」
六花「ははっ」
勇太「ははっ」
勇太「よし。手を出して」
六花「やっぱり、小指がいい」
勇太「えっ。でも小指じゃ」
六花「小指じゃないとダメ」
勇太「でも……」
六花「今だけでもいい?」
勇太「あのときか……」
橋の下で背中に抱かれて、互いに小指で抱き合った、あの日。
忘れない。ずっと忘れない。大切な思い出。
勇太「分かった」
そういって、小指に手を近づける。
六花の体のぬくもりを感じる。大好きって匂いが感じる。
六花の細くて小さくて白い、今にも割れてしまいそうな大切な白い手。
美女だけがいいじゃない。心が合っているから。合わさるまで苦労したなあ。もうあんな苦労はできないんだなあ。そう思うと……今感動して目の前が見えない。
そして潤う瞳の中、
指輪をそっと近づけて、
小指のなかに、そっと、
未来を信じるように、
入った。
俺と六花は見つめ合って笑顔になった。心が通い合ったこの温かさ。暗澹の黎明。
六花「……。きれい」
勇太「そうだろ。特注品なんだぜ」
六花「うわ〜」
六花が小指を回すと赤い宝石がキラッと光ったように見える。指輪のサイズの不一致で落とさないように薬指に小指の先をつけてロックしている。夜空の月に照らされて、月の黄色い光もまた宝石に反射する。
勇太「なくすなよ」
六花「うん!ゆうたとの契約の証」
勇太「でも宝石よりも六花の命の方が大事だから。火災とか一家とかさ。また買う」
六花「そ、そんなに大事にされると、私、そこまで価値がないんじゃないかって、照れる」
勇太「ははっ。お前は宇宙で、誰よりも、一番、愛している!」
六花「えっ/// 私も……ゆうたが……好き!」
勇太「はははっ」
六花「はははっ」
勇太「さて、もう1つのやつ」
六花「もう一つ?」
勇太「まだ言ってないのあるだろ?」
六花「?……あ、」
勇太「ほらここっ」
六花「あ」
勇太「俺今震えてるんだぞ!」
六花「あ、あ、ああ、うん」
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