41: ◆L3c45GW7tE[saga]
2018/01/05(金) 23:11:56.12 ID:6rZ5mY140
第5話 「Vanishment This World !」
勇太「ここ綺麗だな」
六花「……」
俺は来てすぐ話し合うのもあれだと、良心と、ここを見せたかった自慢心と、現実逃避の逃げ心に駆られて、六花と並んで静かな夜の崖の先を堪能した。
ケースとソードを置くことすら頭になく眺めた。
当然夜なので山の形すら分からない。川の音もしない。無音。
それでも崖周囲の蒼い草や花の場所から遥か遠くの深淵を見ているようで手で掴んだら闇の世界を支配している感覚になりそうで好きだ。あの頃が覚醒するようなかっこいい漆黒の深淵。六花もうっとりすると思ったんだ。
隣に彼女といるのに無音の雰囲気が怖くて、逆に彼女の闇の力に包まれているようでいい。
冷たい空気が頬に張りつめて凍る。太ももが凍る。緊張で鳥肌が寒くチクチクする。
六花「ここを見せたかったの?」
勇太「どうだ!かっこいいだろ!闇の世界を空から見下ろしている気分でさ」
六花「うん。私も好き」
壊れそうな声の薄いその笑顔に、苦労して来てよかったと思った。嫌いじゃなくてよかった。
勇太「でも、他が良かった?」
六花「ううん。勇太がいい」
勇太「そっか。地味な場所だけど俺こういうの好きなんだ」
二人でくっつくように立って、静かに見下ろす。ただじっと見下ろす。
……。
景色が変わらないのでそろそろ飽きてきた。その心一緒だろうな。何かが変わりそうで嫌だ。無音がまた緊張を招く。
六花はロープで巻いた剣を草木に落とし、俺は闇のコートと拳銃一式バッグを草木の奥に置き、はめたグローブの中をちらっと確認し、「ゆ」のマジックで書いた右手の紋章を確認する。闇のコートの袖の中にある包帯の存在もちらっと見てなびく包帯を裾の中にしまい込む。いつもの世界に抗うかっこいい俺の格好だなと思うと心がホッと温かくなった。俺は持ってきたケースを邪魔にならないところに置き取り出して、ベルト周りに付け替え剣や銃を入れる。そして大剣も少し重いけどそこに降ろした。例の四角いアレは持ってるな。
よし準備完了だ!
六花も眼帯を外してはまたつけ位置調整をしているようだ。目をくしくしして顔を整えている。
二人は見つめ合って話す機会をうかがっている。怖いけど俺からエスコートしよう。
震える声で。
勇太「えっといい話?」
六花「待った」
六花は数歩俺から離れた。
六花「大丈夫」
背を向いてトコトコと歩くその距離感は本気度を示しているのだろう。何があっても大丈夫なように。
勇太「いくぞ。あ、俺から話す?六花?」
六花「勇太が先で良い」
勇太「俺が先って……」
俺の話す内容例のアレだぞ。六花を差し置いてできない。
勇太「ごめん、あ、あれ……」
なんて言ったら今後に支障をもたらさないか。
六花「あ。勇太が無理って言うなら」
六花は優しく笑うが、まるで誰かを歓迎するお姉さんみたいな薄い笑顔。
六花「じゃあ私から行くね。あまりいい内容じゃないよ」
勇太「うん」
六花「嫌われても構わないって思っている」
勇太「うん……」
六花「覚悟をある?」
勇太「うん」
だんだん落ちようとしているジェットコースター。ここで決めなくちゃな。男だ。六花を守りたいんだろ?
六花は身震いをした後小さく深呼吸をした。彼女の足が少し震えているのが分かる。
六花「質問があるの」
勇太「うん」
六花「……。やっぱり問題ない」
勇太「えっ!?」
六花「……」
勇太「放っておける問題か」
六花「違う、そうじゃなくて」
六花は拳を心臓に当てて、ゆっくりと呼吸し、そして俺を見る。
俺は息をのんだ。その音が分かるくらい暗く静かだった。
六花「言うよ……」
勇太「うん……」
六花「ゆうたは……」
六花「ゆうたはさ……」
六花「死ぬの……?」
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