40: ◆L3c45GW7tE[saga]
2018/01/05(金) 23:10:58.99 ID:6rZ5mY140
夜の道を歩く。異次元の狭間にある、立入禁止の先へ。
崖でも崩れているかと思ったらそうでもないらしくこの一本道の道路を歩くには支障はなかった初めては。だから今回も大丈夫だろう。
六花は俺の後ろで左右をちらちら見ながら震えたような顔をしているので、抱こうとすると平気と言われた。せっかくのデートっていうのに……こんな不便な場所に案内した俺が悪いけど。
長い道の中を左右の草木が分ける。葉のちぎれる音が俺たちの踏み歩いた軌道だ。
風に揺られて多数の木がカサカサ静かに音を立て、蒼い道を枝型に黒く塗る影も変化している。
なぜか車の音も風の音すらなく、俺たちが世界に取り残された怖さを感じている。無音の世界。宇宙空間に行くとどうなるかっていったら、たぶんこんな感じなのだろう。孤独に飢えた最果ての場所。
そして突然カラスの鳴き声が響き、それも大量のが響き、襲われるかと避難しようと思ったが急に静かになる。
草木の実が、なぜか季節外れの、トリカブトの花や、桑の実が、白黒ながらも左右一面に広がっていて、
俺たちを歓迎しているようだ。山に来ればあり得ないことも常識で信じられなかった。これを見たのは植物図鑑以来だ。
森林の隔てる巨大な枝の隙間から、見渡すと空に漆黒に沈んだ星の精細に輝く光、そして月の光。いつもいるメンバーに安心を覚えた。
異常な光景が普通の光景だった。俺は童話の世界に迷い込んだのかもしれない。あの月だって本当は違うのかもしれない。世界でたった2人だけ。生きているのは2人だけ。普段うっとおしい人間関係も寂しさで欲しがりたくなる。中二病……。俺にとっては最大の汚点で、思い出したくもない、自己承認欲求丸出しの恥ずかしい病。闇の炎もドラゴンも世界を変えた事実もない。ほんの凡人だ。俺はもう卒業したんだ。でも六花はこの空虚な現実世界なのに面白さを闇の力を開放することで精いっぱい喜んでいた。ありもしないのに笑えるって不思議だった。尊敬の的だった。俺もそうなりたいって思い出させてくれた。大切な宝物。六花の中二病を、終わるまで、そして終わってからも大事にしたい。ずっと。永遠に。だから六花の好きなような世界になってしまえばいいのに。ドラゴンも魔法少女もいる毎日冒険できる特別な世界に。笑いとワクワクが止まらないだろうな。空虚の現実でも、俺たちがしんとした足音のみが響く夜の森を歩いている傍らで、実は人間の立ち入らないここに宇宙人や幽霊が人知れず夜の葉をならし、山月記の虎やトトロが黒い木の陰からこっそりと俺たちの歩く姿を見ているかもしれない。いや、そうじゃない。実際にいるんだ。忘れたくない世界の妄想。実際よりちょっとだけ見えない場所にいるだけなんだ。その温かい気持ちに六花の望んだ世界とリンクして、俺も心が若返ったようなドキドキが堪らなく嬉しい。真っ暗闇の世界が虹色に輝いている。この気分、久しぶりだ……!
改めて、六花と出会えたことに感謝し、大好きで、早く仲直りしたいと思った。
そして道の最後にある、
森を超えた先にある、
途中で景色の遮断された、
地面の広がらない、
崖。
狭いけど、
草木と花でいっぱいで、
電気すら見えないが遠くの山もうっすら空の境界の線で見える、
見晴らしのいいところ。
俺はその崖を前に、六花に体をくるりと回して見せ、手を大きく広げて、六花の動きを止めた。
闇のコートとゴシック衣装が風に揺られる。
六花も、俺も、何一つ抜けない、真剣な表情だった。
言いたいことがある。
教えてくれ。
本当の話を。
なにがあった……?
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