六花「勇太をなんとしてでも独占したい!」
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38: ◆L3c45GW7tE[saga]
2018/01/05(金) 23:09:39.11 ID:6rZ5mY140
誰もいない。
先のぼやけて見えない真っ暗な夜。
郊外すら超えて。
アスファルトだけどその周りは。
見渡す限り畑だらけ。
でもさすがに不安になったので俺が「もうすぐ」と言うとその気持ちにこたえるように抱きしめが強くなった。
もう隣に電車や高速道路といった大きい建造物を見かけなくなった。住宅街もなく、車の音も聞こえなくなった。俺達だけの空間。
案内標識だけが救いだった。
闇の中でも映るカーブミラーで魔界でなく人間の住む世界だってわかった。
太ももの筋肉が張り詰めて激痛が走る中、
それでもあの山へ、
そのぼんやり見えてきた山の入り口までひたすら走る。
一直線から右に曲がった後、細い道路をくねって再度一直線だ。
あそこまで前方水平なのが幸いだった。
今回は以前の橋の下で告白したときと違う、俺の偶然見つけたところ。
その素晴らしさを分かち合いたい。
一台の自転車が虚無の路上を過ぎ通る。
そしてとうとう山の入り口まで、夢に見た光景が本当にやってきてしまった。
まさかやり遂げるなんてな。それを意味するのは……いまさら武者震いなんて遅いぞ。
久しぶりという声もかき消されるほど、呆然とした。11月の秋らしく落ち葉がすごい、目の前にはただカーブミラーと街灯がぽつんと光っているだけ、その先の入り口以降は静かで何も音も聞こえず真っ暗で見えない。俺達はそんな山の入り口を前にして、でも止まらずにはいられなかった。内心忘れたい気持ちでいっぱいだった。その葛藤を急な坂道にぶつける。
最後の全速力をぶつけることで頭の思考を止め、俺は大切な彼女のためにしっかりと汗と息を流しながら、硬くなりつつあるペダルを踏む。さすがにこたえる。最初はよかったけど、今のペダルじゃハンドルを急な左右に振っても、首を上下に振り回しても全然効果がない!空を何回見上げても全然上がる気配のない!辛い……辛い…...!息が……もう……!でも六花が……!ここまでかよ!ちくしょう!行きたいのに!行かなきゃいけないのに!ペダルが!ペダルがあ!!

六花「あの、」

勇太「えっ?」

六花「降りようか?」

あ…...。
完全に忘れてた。
六花に気遣われたじゃないかあ!俺こそ、ちくしょうじゃないか!ちくしょうめ!
俺達は自転車を降りて、六花はロープ越しのソードを揺らしながら、ともに自転車を押して歩いている。入口からくねった暗い山道を登る。自転車の重い傾斜の深くなる一方、山の入り口以降は静かすぎる。カタカタカタという音のみが支配しているありさまだ。風の音すらしない、動物の音も落ち葉の音もしない。クマやヘビが出たらと思うとおぞましくなるが11月に限ってないと思いたい。もしでたら一目散に手を繋いで出よう。山の中での自転車のライトが頼りだった。でもダークフレイムマスターの真の力が発揮されたのか、なぜか夜でも蒼く目の前が映っており視界に不満はない。先ほどの荒い息も今になるとほんの少しだけ回復しているのが分かった。

まっすぐ行くと再び曲がる道があり、そこに森の中に、巨大な柵の中に、例の場所が見える。

禁断の扉だ。

人間の立ち入ることのできない、選ばれし者のみが入れる場所。立入禁止と書いてある。
俺の身長の2,3倍はある輪っか模様の、巨大なオレンジ色の柵から真っ黒い森林の枝が多く突きさしている。その柵の中の立入禁止を命じる看板マスコットのおじさんが、夜中にひっそりとぼうっと浮かんでこちらを見ているような恐怖心を感じた。監視カメラを確認する。ここには……ないな。
すいた穴は柵の上の深淵だけだった。
自転車を押し上げて一本道をカーブしたところに、それはあった。
そしてたどり着いた。
俺はぼんやりただ眺めるしかなかった。目の前の光景が本物になるとはと感嘆しつつ、今からそれになるんだって実感が今も湧かない。普通ラスボス前ならセーブしてやる気になるのに、今はこんなことやり遂げてもいいのかと感動が薄れている。
取りあえず重いので、自転車をふさふさした落ち葉のある草木へゆっくりと二人で降ろす。
勇太「ばいばいエルメス。少し待っててくれ」
六花「月下氷人ちゃん二号でしょ」
くすくすっと笑われた。
ううんっ。ここはウケ狙いだったけど笑ってくれてよかった。六花が横で笑ってくれるだけで嬉しい。そう満足する。

だって、もう


予感が、嬉しくとも感じない未来を描いていたのだから。


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