北条加蓮「アタシ努力とか根性とかそーゆーキャラじゃないんだよね」
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◆ikbHUwR.fw
[saga]
2017/12/31(日) 23:15:09.85 ID:vyCd+JK40
週が明けて月曜日、アタシは事務所にやってきた。
「お、加蓮ちゃんおはよー」
ソファに寝そべった杏が携帯ゲーム機から顔をあげる。部屋の中には他に人の姿は見当たらない。
「おはよう、乃々ちゃんは?」
「いるよ、いつものとこ」
アタシは机にむかって「乃々ちゃんおはよう」と言った。
「おはようございます……」と、か細い声が返ってくる。
うん、いつもの事務所、いつもの風景だ。
今日でアタシの契約は切れる。
仕事をしないアイドルがふたり、思い描き、夢に見ていたアイドル像と、それはあまりにかけ離れていて、アタシは大いに戸惑った。
「……ねえ、アタシが初めてここに来た日さ、杏、アタシの思うアイドルってどんなものかって訊いたよね」
「そんなこと言ったっけ?」
「言ってたよ。それで、ずっと考えてたんだ」
「へえ、それで、答えは出た?」
アタシはうなずいた。
杏は、『アイドルの事務所と契約を交わしたらアイドルだ』と言った。
プロデューサーは、『アイドルは偶像だ』と言った。アタシは――
「アタシは、自分がアイドルだと思ったらアイドルだと思う」
「……ほほー、それはまた」
杏は少し考えこむような仕草をして、
「ロックだね」と言った。
「ロック?」
「うん、そのうちわかるかも」
と、そのとき――
『……ォォォ』
なにやら地響きのような音が耳に届く。
「……ねえ、杏、なにか聞こえない?」
「あー……うん、聞こえるね」
なんの音だろう? 杏はこの音の正体を知っているのか、困ったように苦笑いしていた。
『ォォォォオオオオオ』
それは、少しずつこちらに近付いてくるように、だんだんと大きくなる。
杏が落ち着き払ってるから、たぶん危険はないと思うけど。これは、
…………人の、声?
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