北条加蓮「アタシ努力とか根性とかそーゆーキャラじゃないんだよね」
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33: ◆ikbHUwR.fw[saga]
2017/12/31(日) 22:52:04.40 ID:vyCd+JK40
 プロデューサーは、打ち合わせがあるとかで再び外に出て行った。
 いまいち現実感が湧いてこない。アタシがアイドルとしてライブをする? 本当に?
 それに杏も乃々ちゃんも、仕事はしないんじゃなかったの?

「どうなってるんだろ……」

「そりゃ加蓮ちゃんのためでしょ」

「今ごろレッスン始めたぐらいで、そんな」

「んー……どっちかというと、加蓮ちゃんがレッスンを受け始めた理由のほうが重要かな?」

 そんなの、誰にも言ってないし、訊かれてもいない。

「加蓮ちゃん、神谷奈緒って子、知ってるでしょ?」

「神谷? 知らない」

「あれ……ああ、名前を知らないのか、加蓮ちゃんと同じ日にウチの事務所に入った子だよ」

 胸の中がざわついた。事務所の前で出会った女の子。デパートでライブをしていた女の子。
 でも――なんで、あの子の話が出てくるのだろう。

「その子は、入ってからずっと熱心にレッスン取り組んでて、もう基礎は卒業してる。ちょうど加蓮ちゃんと入れ違いになるのかな? それで、こないだその子のデビューイベントがあったらしいんだよね、近場のデパートで無料ライブ。それがあった日に加蓮ちゃんが血相変えてやってきて、レッスン受けたいって言い出した。あの日はいつもより少し来るの遅かったよね。状況を見るに、加蓮ちゃんがたまたまその神谷奈緒ちゃんのライブに出くわして触発された可能性が高いね」

「プロデューサーが、そう言ってたの?」

「いや、なにも言ってないよ。これはあの人がそう推測しただろうっていう、杏の推測」

 アタシは絶句していた。推測でそこまでわかるものなのか。

「つまり、ひいきだよね。これって」

「ひいき?」

「うん。これぐらいキャパのあるライブハウスでデビューなんて、かなり異例だよ。加蓮ちゃんと同じ時期に入って、しっかりレッスンもしてる子が、やっとこさデパートで無料ライブなんかやってるわけじゃん? これが終わったら、加蓮ちゃんは実績的には他の子がコツコツ一歩ずつ階段を上がってるのを、最後尾から一気にぶち抜いたことになるよ。なかなか爽快だね」

「特別扱いされる覚えがないんだけど」

「それだけ期待されてるってことでしょ」

「……そんなはずない」

 期待される理由が思い当たらない。

「加蓮ちゃんさ、オーディションって受けた?」

「え? ううん、アタシはプロデューサーからスカウトされたから」

「スカウトって2種類あるんだよ。ひとつはウチの事務所で定期的にやってる所属オーディションに参加しないかって誘うこと、杏はこれだった。もうひとつは、プロデューサー権限でオーディションを飛ばして合格決めちゃうこと。加蓮ちゃんは後者ってことだね」

「そんなの、聞いてないよ」

 杏はうなずいて、続けた。

「オーディションのほうはね、人数に制限がない。なんならそこらへんにいる子を片っ端からスカウトしちゃってもいい。だけど、加蓮ちゃんみたいに即合格決めちゃうほうは、たしか各プロデューサーがひとりしかできないんだよ。それも、もしスカウトした子が辞めちゃったとしても権限は復活しないから、おいそれと使えるもんじゃないんだよね。だから、加蓮ちゃん自身がどう思ってるかは知らないけど、あの人は加蓮ちゃんに、よっぽど入れ込んでる。これだけは確かなことだよ」



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