北条加蓮「アタシ努力とか根性とかそーゆーキャラじゃないんだよね」
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◆ikbHUwR.fw
[saga]
2017/12/31(日) 22:44:45.38 ID:vyCd+JK40
にっこりとほほ笑んだトレーナーさんが、ラジカセの再生ボタンを押した。
流れ出したのは、レッスンに使っていたのと同じ音楽だ。乃々ちゃんがおどおどと踏み始めるステップも、さっきまでアタシがやっていたのと同じもの――だけど、
これが本当に同じものかと思った。
初心者用の簡単なダンス、そのはずなのにアタシは、いや、この場にいる全員が、乃々ちゃんから目を離せなくなっていた。
レッスンでトレーナーさんが手本として見せていたのは、定規で測ったような正確なダンスだった。乃々ちゃんのはそれとは違い、なんとなく、ところどころに若干のズレ、揺らぎのようなものがある。だけど直感的に、その揺らぎこそが目を離せなくなる要因だと思った。
正直なところ、アタシはダンスの上手い下手なんてわからない。正確であることを上手いというのなら、トレーナーさんのほうが遥かに上だろう。でも、目を引き付けられるのは乃々ちゃんのほうだった。アタシは疲れも忘れてそれに見入っていた。
音楽が途切れ、歓声と拍手が沸き起こる。
乃々ちゃんの顔がみるみるうちに真っ赤に染まっていった。
「か、加蓮さん! 早く行きますよ!」
乃々ちゃんはそう言ってアタシの手をつかみ、レッスン室の外に引っ張っていった。
無理くぼとか恥くぼとかつぶやきながら、ずんずんと速足で廊下を歩き、レッスン室からだいぶ離れたころ、ようやく歩調をゆるめて、手を放してくれた。
「あ、あのさ、ごめん。乃々ちゃんのこと見くびってたよ。ダンス、すごい上手なんだね、すごかった」
「そう言ってもらえるのは嬉しいですけど……でも、あーゆーのはむーりぃー……」
「……杏も、できたりするのかな。乃々ちゃんみたいに」
乃々ちゃんはぴたりと足を止めた。
あれ、なにかマズいこと言ったかな? と思いながら隣に並び、その横顔をのぞき込む。乃々ちゃんは口元に指を当てて、なにか思い返しているように、やや上の虚空を見つめていた。
「杏さんは、こんなものじゃないですよ」
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