北条加蓮「アタシ努力とか根性とかそーゆーキャラじゃないんだよね」
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26: ◆ikbHUwR.fw[saga]
2017/12/31(日) 22:41:29.68 ID:vyCd+JK40
 更衣室に案内され、事務所で貸し出しているレッスン着に着替える。それからレッスン室に入ると、まだ時間には余裕があるはずなのに、すでにたくさんの人がいた。
 アタシは後ろの隅のほうに陣取り、ひとりで周りを真似てストレッチをした。我ながらびっくりするぐらい体が固かった。
 ほどなくして、黒髪を低いサイドテールにした女性が入ってきて、部屋にいる人たちが整列した。あの人がトレーナーさんということらしい。

「まず私がやって見せるので、みなさん同じように動いてくださいね」

 そう言ってトレーナーさんがラジカセの再生ボタンを押す。
 単調なリズムのインストゥルメンタル曲が流れ始め、トレーナーさんがお手本を見せた。脚運びだけの単純なステップだ。
 それからトレーナーさんが手を叩いてリズムをとり、全員が同じ動作をする。

 ――できた。なんだ、簡単じゃない。

 ほっと胸をなでおろしたのもつかの間、またトレーナーさんがお手本を見せて、全員で後に続く。それを繰り返し、次のステップ、さらに次、と続けていくうちに、だんだんと動作が複雑になっていく。腕の動きも加わり始めた。しだいに頭も体も処理が追い付かなくなり、アタシは足がもつれて何度も転んだ。
 30分も経ったころには、心臓が爆発しそうになっていた。

「北条さん、少し休んでいてください」

 トレーナーさんが声をかけてくる。

「だいじょうぶです」

「でも……」

「だいじょうぶです」

 トレーナーさんは困ったような表情をしていたが、ふいにパンと手を叩き、

「今から10分間休憩とします。皆さん水分補給しておいてくださいね」

 そう言って、部屋を出ていった。
 アタシは床にへたりこんだ。肺と心臓と全身の筋肉が悲鳴をあげていた。
 全身汗だくで、喉はカラカラに渇いていたけど、飲み物を買いに行く気力もなかった。

 ふと人の気配を感じて顔を上げると、プロデューサーがアタシを見下ろしていた。

「今日はここまで」

 とプロデューサーは言った。

「まだやる」

「だめだ」

「……なんで」

「他の子らの邪魔になるから」

 言い返せなかった。休憩に入る前、トレーナーさんは明らかにアタシを気にしていた。アタシを休ませるために、休憩を前倒しにしたんだと思う。
 アタシはよろめきながらレッスン室を出た。

「最初はこんなもんだよ」

 シャワー室に向かうアタシを送り出しながら、プロデューサーが言った。

 でもアタシは、こんなものじゃ嫌なんだ。



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