5: ◆kiHkJAZmtqg7[saga]
2017/12/31(日) 20:54:39.20 ID:bbgcA4Fi0
控え室に置いてある自前のお茶道具を引っ張り出し、銀色の袋から茶葉を適量すくって移していく。とりあえずまだ確かな地位を残しているはずの作業に手を付けながら、雪歩は三人の様子をちらりと窺ってみた。
「むむ、この空き時間でロコアートをコンプリートするのはシビアになりそう……うーん……」
ロコはスケジュール表とにらめっこしながら何事かぶつぶつと呟いている。普段から難しいカタカナ語を多用する彼女には、なんだか凄いな、という漠然とした印象を抱いていた。実物を見たことはないけれど、アートについて語っているときの真剣そのものな表情は記憶に残っている。それもまた、雪歩のロコに対する印象を決定づける要素の一つだった。
6: ◆kiHkJAZmtqg7[saga]
2017/12/31(日) 20:55:23.92 ID:bbgcA4Fi0
*
姿見の前に四人並んで、緩やかな音楽に合わせてステップを踏む。激しいダンスでは決してないから、振り入れにそこまで時間はかからなかった。しかし、当然ながらただ踊れればいいというものではない。
7: ◆kiHkJAZmtqg7[saga]
2017/12/31(日) 20:56:47.07 ID:bbgcA4Fi0
「とりあえず、言い出しっぺのロコからアイディアをプレゼンしますね。ロコは、何といってもアーティスティックにステージを彩りたいと思ってます!」
ロコは自分の理想を、今度こそ自信に満ちた笑顔で宣言した。
「アイドルは歌って踊るもの。でも、それだけじゃないってロコは思います。ステージを、公演を、その全部をクリエイトしてこそアイドルです! そして、ロコがクリエイトするステージに、ロコアートは欠かせません!」
8: ◆kiHkJAZmtqg7[saga]
2017/12/31(日) 20:57:14.63 ID:bbgcA4Fi0
「えっと、桃子ちゃん……?」
「次、桃子の番だよね」
「え、ええ。そうなりますわね」
9: ◆kiHkJAZmtqg7[saga]
2017/12/31(日) 20:58:01.33 ID:bbgcA4Fi0
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交わした言葉は十分じゃなくて、それでも時間は流れていく。それを仕方のないことだと考える者もいれば、どうにかしたいと思う者もいた。
そして、全員が自分なりの最善を尽くしながら、最初のレッスンからさらに二度レッスンが重ねられた。
10: ◆kiHkJAZmtqg7[saga]
2017/12/31(日) 20:59:58.74 ID:bbgcA4Fi0
「……! わたくし、コロちゃんを追いかけてきますわ!」
「……ぇ、あ、はいっ。お願いします」
言い争いの間はあたふたして止めに入ることができず、いざロコが飛び出してしまっても、呆然として千鶴に任せることになってしまう。また何もできなかったな、と雪歩は口惜しさに手のひらをぎゅっと握った。
11: ◆kiHkJAZmtqg7[saga]
2017/12/31(日) 21:01:36.88 ID:bbgcA4Fi0
劇場の廊下は部屋の中ほど暖房が強くないから、厚着とも言えないレッスン着だと少し肌寒い。小走りで控え室に向かう途中、遠くから千鶴がロコを呼ぶ声が聞こえた。
もしかして、まだ見つかっていないのだろうか。手伝いに行こうかとも考えたけど、今更自分一人が加わったところであまり役には立てないだろうと思い直す。
目当ての部屋にたどり着いて、最近出番が多くなってきたお茶道具を引っ張り出した。みんなが各々好きに持ち寄った道具を所狭しと収納した部屋の中で、よく使われるものはそこまで入り組んだところに行ってしまわない傾向にある。冬のお茶道具やコーヒーメーカーは、その代表例と言ってもいいだろう。
お茶をいれることにしたのは、温かい飲み物があればもっと落ち着けるはず、なんて月並みな考えから。湯のみの数に少し迷ったけど、ちゃんと必要になりますように、とほんの小さな願掛けを込めて四人分のお茶を用意することにした。
12: ◆kiHkJAZmtqg7[saga]
2017/12/31(日) 21:02:31.72 ID:bbgcA4Fi0
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「コンセプトはやっぱり悪くないはず。でもモチーフをプラスするとなるとアイディアがまだ足りないし、それに何より時間が……」
13: ◆kiHkJAZmtqg7[saga]
2017/12/31(日) 21:03:07.93 ID:bbgcA4Fi0
「ねえ、コロちゃん。ひとつ聞いてもいいかしら?」
「いいですよ、チヅル」
ロコの悩みを吹き飛ばすために必要な質問がすぐに思い浮かぶことはなかった。だから、まずはずっと気になっていたことを率直に聞いてみることにする。
14: ◆kiHkJAZmtqg7[saga]
2017/12/31(日) 21:03:37.89 ID:bbgcA4Fi0
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口に出して伝える言葉を信じてみることにしたの。
だから、今は――
15: ◆kiHkJAZmtqg7[saga]
2017/12/31(日) 21:04:11.73 ID:bbgcA4Fi0
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「あれ、ここにあったビデオカメラ、どこにいっちゃったのかな……?」
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