12: ◆kiHkJAZmtqg7[saga]
2017/12/31(日) 21:02:31.72 ID:bbgcA4Fi0
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「コンセプトはやっぱり悪くないはず。でもモチーフをプラスするとなるとアイディアがまだ足りないし、それに何より時間が……」
ぶつぶつと、ロコが独り言を呟いては机の上にばら撒かれた紙に何事かメモをしていく。そんな光景が劇場の一室で繰り広げられて、すでに随分と時間が経っていた。
桃子と喧嘩して、他のアイドルがレッスンに使う時間も近かったからレッスンルームを退散することになった。それからずっと、彼女は真剣な面持ちで机に向かったままだ。窓の外から見える空はとっくの昔に真っ暗になっていた。
贅沢にも机をひとりじめしている紙のひとつひとつには、イラストのようにも図案のようにも受け取れる絵が描かれている。その上に現在進行形で書き加えられている走り書きのコメントは、そろそろ余白を埋め尽くしてしまいそうだ。
ふと、ロコが固まるように動きを止める。一秒、二秒……たっぷり十秒ほど硬直したのち、一気に体勢を崩して絶望的な表情とともに机に突っ伏した。
「コロちゃん、そろそろ劇場も戸締りの時間ですわ。その辺りにして今日は帰りましょう?」
ロコの様子は見ていて飽きないものだったけど、このタイミングで声をかけないと本当に何時間でも繰り返してしまいそうな気配があった。流石にそれはまずいと声をかけた千鶴に、机に突っ伏したままの小さな芸術家は力なく返事をする。
「チヅルぅ……そうしたいのはやまやまですが、コンクルージョンを出さないことにはロコは帰れません……」
「まったくもう、今日はレッスンの終わりにあんなことがあったのに、コロちゃんは元気ですわね」
ほんのちょっとの皮肉を交じえれば乗ってくれるんじゃないかという目論見はどうやら外れてしまったらしい。ロコは顔を上げ、浮かない表情で千鶴を見つめる。元気、という評価は大きく間違っていたかもしれない。
「……だからこそ、なんです。レッスンだってしっかりしたいから、アートにかけられる時間はもっと減ってしまいます。アートがなくちゃ、ロコは、ロコは……」
どんどんと声音が落ち込んでいくロコの様子には覚えがあった。これはちゃんと話を聞いてあげる必要がありそうだ、と千鶴は思い直す。とはいえ、何から聞き出したものか。
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