萩原雪歩「ココロをつたえる場所」
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5: ◆kiHkJAZmtqg7[saga]
2017/12/31(日) 20:54:39.20 ID:bbgcA4Fi0
 控え室に置いてある自前のお茶道具を引っ張り出し、銀色の袋から茶葉を適量すくって移していく。とりあえずまだ確かな地位を残しているはずの作業に手を付けながら、雪歩は三人の様子をちらりと窺ってみた。

「むむ、この空き時間でロコアートをコンプリートするのはシビアになりそう……うーん……」

 ロコはスケジュール表とにらめっこしながら何事かぶつぶつと呟いている。普段から難しいカタカナ語を多用する彼女には、なんだか凄いな、という漠然とした印象を抱いていた。実物を見たことはないけれど、アートについて語っているときの真剣そのものな表情は記憶に残っている。それもまた、雪歩のロコに対する印象を決定づける要素の一つだった。

「……あら、雪歩ちゃん? わたくしに何かご用かしら?」

 千鶴は雪歩の控えめな視線にも気づいたようだ。今回のメンバーでは唯一の年上で、ふとした仕草からも周りをよく見ているんだな、と感じさせられる。人前に出ても堂々としているし、自分なんかよりもずっと人を引っ張れるんじゃないだろうか、と。そんな風に雪歩が半ば頼りにしてしまっている相手でもあった。

「だいたい、お兄ちゃんは業界人にしては計画性が足りてないの! 一人二人なら足でカバーできるかもしれないけど、自分が何人プロデュースしてるのか、ちゃんとわかってる?」

 桃子は宣言通り、プロデューサーにみっちりとお説教していた。随分と歳は離れているはずなのにそれを感じさせないどころか、プロとしての意識については誰よりも強いように思える。それが雪歩を少し委縮させている節もあるのだけど。
 ……うん。
 改めて、雪歩は共に歩む後輩たちが個性に満ち、まばゆいばかりの輝きをまとうだけの存在たりうるのだと実感した。自分よりも凄いところなんていくらでも挙げることができるだろう。だけど、それだけじゃない。
 そんな仲間と一緒だから、自分もまた次の一歩を踏み出せるんじゃないかと、期待を抱かずにはいられないのだ。
 だから、そう。まずは、もっと明朗な声音でみんなに呼び掛けてみるところから始めてみよう。

「みんなー、お茶ができあがりましたーっ! 桃子ちゃんも、ペットボトルでいいから一緒にどうかな?」

 出会ったばかりの頃よりはよく知っていて、だけど深いところまでは見せ合えていない。そんな関係をちょっとずつ進めていくために、小さなお茶会が始まろうとしていた。



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