27: ◆kiHkJAZmtqg7[saga]
2017/12/31(日) 21:15:40.23 ID:bbgcA4Fi0
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何日経っただろう。何の刺激もない毎日は、数えようとすら思えなかった。そしてそれは、唐突にロコの元へ訪れた。
小さなダンボールに入った配達物。何かを注文した覚えはないし、贈り物があるだなんて話も、最近どころか生まれてこの方ほとんど聞いたことがない。
――ロコに届け物なんて、なんだろう。
気になって開いた包みには、一枚のDVDと、作りかけのブレスレットが一つだけ入っていた。
「これ、ロコの……。捨てたはずなのに、どうして……?」
手紙も何も入っていない。メッセージらしきものを伝えてくれそうなのはDVDだけだったから、震える手でパソコンに読み込ませて、中身の動画ファイルを再生した。
木張りの床に、たくさんの姿見。劇場のレッスンルームだろうか。レッスン着の雪歩と桃子、千鶴が並んで映っている。
流れ始めたのは、この数日間、ロコがずっと再生していた曲だった。CDが発売されたばかりの、公演も予定されている、未来を夢見るような優しい曲。
三人が、きれいに歌い、踊っていた。ぴたりと揃った動きに見とれてしまう。ああそうか、ロコがいないうちにこんなに上手くなったんだ。一瞬で理解できた現実に、それでも実感は追いつかなかった。そんなことよりも目の前に流れる映像と音楽に夢中になっていた。
そして、夢中になっていたからこそ気づかなかったのだ。サビが始まるのと同時に歌声が止んだ。みんなは、笑顔で右腕を高く掲げて。
三様にデコレートされたブレスレットが、光を反射してきらめいた。
「ロコ! これが、桃子の色。ずっと言えなかった、桃子の色っ! だから……ロコの色も、教えてっ!」
「言葉だけでも伝わることはあるかもしれません……でも、撤回しますわ。だって、伝えられるものは全部伝えなくちゃ、勿体ないですもの!」
「……みんな、待ってるよ。笑い合いたいから。伝え合いたいから。だから……ロコちゃんとも、会いたいな」
じわりと、滲む。みんなが大きく手を振って……それももう、ぼやけてよく見えないけど。みんなの笑顔は、少しだけ寂しそうで、精一杯で。
「っ、ぅあ、ああぁあぁああ……!」
まだうまく名前のつけられない気持ちが、優しくあたたかく押しよせてきた。嗚咽の形でしか吐き出せない、ぐちゃぐちゃの感情。
どうして? どうして? わからない。わからないことばっかりだ。あのブレスレットがみんなの腕に、そしてこの場所にあることもそう。覚えのない飾りが増えたそれをみんなが着けていることもそう。でもなんだか違う、それはぜんぜん大事じゃなくて。ああ、ああ、そっか。そうなんだ。ロコの胸をいっぱいにするこの想いは。
嬉しいんだ。感じたこともない嬉しさに、どこかのねじが飛んでいってしまったんだ。ようやく理解すると同時に、流れ続けていた曲が止まった。わずかな余韻を残して、動画も再生し終わったみたい。
「っ、ぐす、あ、はは……。なに、してたんだろ」
難しいことなんて、いらなかったはずなのに。なんだかすごく久しぶりに笑った気がした。
……もう一回。もう一回だけ再生したら、作業に取り掛かろう。
少しだけ未練がましく、でもこれで充電も最後にするから。ロコは目元を拭って再生ボタンをクリックした。さっきはよく見えなかった三人の姿を、目に焼き付けたかった。
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