萩原雪歩「ココロをつたえる場所」
1- 20
28: ◆kiHkJAZmtqg7[saga]
2017/12/31(日) 21:16:06.74 ID:bbgcA4Fi0



 公演を一週間前に控えて、レッスンもいよいよ大詰め。そんな日になっても、ロコはまだ劇場を訪れていなかった。できることはしたはず。そう信じていても、不安は隠せない。
 反応が完全に途切れてからもたびたび連絡をしてみたけれど、どれも繋がることはなかった。プロデューサーに掛け合ってみても首を横に振るばかり。どうしても気になるなら家の方に連絡を入れようかという提案は、ロコの意思を尊重して断ることにした。

「ロコ、今日もまだ来てないね」

「ええ……どれだけの力を尽くそうとしても、これ以上は限度がありますわ」

「だ、大丈夫。きっと、来てくれるよ」

 レッスンルームに時間より早く集まって、そわそわと言葉を交わしあう。最悪の場合、公演は三人で行うことになっていた。時間が経つごとに、不安は倍増しに積もっていく。
 ロコがビデオを見てくれているかすら判然としなかった。彼女があのアートに少しでも未練を抱いていたなら、きっと手に取ってくれるはずだけど。時計の針が動く速度が異様なほどゆっくりにも思えるし、一瞬で過ぎ去っていくようにも感じられた。
 そうして、レッスンが始まる五分前。今日も駄目か、と諦めに近い空気が流れ始めた頃に。

「控え室に誰もいなかったし、もしかしてスケジュールをミステイクしたんじゃ……あ」

 彼女は少しだけ不安げに、それでも三人と比べれば何食わぬ顔でレッスンルームの扉を開いた。目が合って、少しの間お互いに硬直する。

「三人とも、こっちでスタンバイしてたんですか!? ロコはてっきり……うわわっ!?」

 ロコの言葉が終わる前に、三人がロコのもとへ駆け寄る。その中でも桃子は怒りに身を任せた全速力で、半ばタックルのようにロコの身体へ突撃していた。

「ロコ、おっそい! 間に合わなかったらどうするの!? 本当にギリギリなの、わかってるよね!?」

「も、モモコ、テリブルです! どれだけハードなレッスンでもロコはやりきりますから、許してくださいーっ!」

「……うん。いいよ、許してあげる」

 鬼の形相だった桃子は、一瞬でなりを潜めた。ロコは拍子抜けして、ぽかんとした表情を浮かべる。桃子がほんの少しだけ目を逸らした。

「おかえり、ロコ。来てくれて、嬉しかった」

「……はい。ただいま、です。モモコ、チヅル、ユキホ……お待たせしました」

 きまり悪く笑ったロコの右手で、花とリボンをあしらったブレスレットがきらりと輝いていた。



<<前のレス[*]次のレス[#]>>
32Res/90.12 KB
↑[8] 前[4] 次[6] 書[5] 板[3] 1-[1] l20




VIPサービス増築中!
携帯うpろだ|隙間うpろだ
Powered By VIPservice