【ミリマス群像劇】最上静香「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」
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85: ◆17z5a1JMEs[saga]
2017/12/24(日) 03:45:40.46 ID:tCiOWLnR0
16 〜クリスマス当日〜

やっとまいたか。
後ろを振り返ってみるが、俺を追いかけるような奴の気配はない。

今回狙ったやつは中学生ぐらいだったが、なかなか体力があるな。本当にしつこかった。
男は全力疾走を解除し、1割ずつ段階を踏んでスピードを解除していく。そして徐々に荒ぶる息を整えながら、本日の獲物であるピンクのマザーズバッグの口を開く。

いや、駄目だ、まだ中身を確認していい時じゃない。安全を確保してからだ。男は好奇心をぐっとこらえる。
周りを見渡す。前には娯楽で走っているようなランナーが1人ゆっくり走っている。が、そいつだけだ。今の俺のクールダウンのペースだと簡単に抜かしてしまうだろう。
ここで立ち止まって中身を確認できればいいが、それは出来ない。なぜなら引ったくりとは体が資本の仕事だからだ。ここで立ち止まって体に負担を掛けるぐらいなら追い越しちまってからどっかで確認した方がいいか。
男は全力疾走の7割程度のスピードで前のランナーを軽く抜かす。

さて、どこで獲物の確認をするか。男は次の思考に移ろうとする。しかしその思考はすぐに中断される。短い間隔で鳴り響く足跡が男の耳朶を打ったからだ。

後ろを振り返る。
さっきの娯楽ランナーだ!
よく見るとそいつはオレンジのパーカーに「本日の主役」というタスキをつけた小さな女の子だった。そいつが俺を必死に追いかけてきている!

くそ、まさか俺が引ったくりだってことがばれたのか?十分にあり得る。なぜなら大の大人が黒い服に女物のピンクのマザーズバッグを持ち歩いているんだから。
アクセルを力強く踏むように男は強く地面をける。すなわち全力疾走を開始した。
数十秒間。それを持続する。既に一仕事を終えた男の足ではそれが限界だった。だが男には自分の脚に対する信頼がある。だから引ったくりなんて仕事をやっている。数十秒あればかなりの速さで、それなりの距離を進める。そうすれば、娯楽ランナーなんて軽く引き剥がせる。持続可能時間が終了し、男の脚は全力疾走を終了する。さあ、どうだ?
男は後ろを振り返る。

いた。オレンジ色のパーカーを着た女の子が男の全力疾走前と同じ距離を保ったまま、ついてきていた。
嘘だろ?まさか俺はこんな形で終了なのか?
女の子のペースは変わらない。そして男のペースはどんどん落ちていく。

まずい、どんどん距離が縮まっていく。
「本日の主役」とかそんな訳の分からないタスキを付けた不審者に俺の引ったくり人生の幕引きを宣言されんのか?
 そうこう考えているうちに男と女の子との距離は目と鼻の先になる。
万事休すか?そう思った時だった

可奈「猪突猛進、もうもうし〜ん。また可奈の勝ちかな〜♪志保ちゃんに勝利の報告〜♪」

女の子は妙な歌を歌いながら男の横を素通りしていった。なんだ、なんなんだ?
男は自分の目の前を走る女の子の背中を目で追っていた。
女の子は携帯を取り出して、走りながら「また勝ったよ〜」と志保ちゃんとやらに報告している。次の瞬間。女の子は派手に道の真ん中ですっころんだ。

チャンスだ。と男は思った。とっととこいつを引き離してどこか安全な場所へ行かなければ。
男はなるべく倒れている女の子を見ないように、その女の子の隣を走り抜ける。
だが、何かが脚に引っ掛かり男も派手に転んだ。その際手に持っていた盗品のバッグを盛大に前方に向かって遠心力のままに放ってしまう。口の開いていたバッグから何かが飛び出すのを目撃する。あれは、ダンベル?2秒後、派手な音を立ててガラスが割れる音がした。
まずい!男はすぐに立ち上がり、ガラスの割れた切妻屋根の絵本に出てくるような建物に侵入し、バッグを確保する。そして周りを顧みることなく脱出と逃走を開始した。もう足のことなど気にする余裕は男にはない。

志保『可奈、ちょっと大丈夫?なんかすごい音が聞こえたけど……』
携帯から志保ちゃんの心配する声が聞こえる。

可奈「だ、大丈夫だよ〜。全然平気だし、全く可奈は無関係かな〜♪」

可奈は咄嗟に嘘をついた。

志保『本当に?嘘をついて――』

可奈「それじゃ、志保ちゃん!私はランニングに戻るから!またね!」
通話を切り、せかせかとランニングを再開する。
だが少し違和感を覚える……なんだろう……

可奈「あ!『本日の主役』のタスキがない!」






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