70:名無しNIPPER[saga]
2017/12/31(日) 19:02:12.02 ID:Z+ozzRtCo
園子「……驚いていないね? 今の言葉って、本来なら千景ちゃんにとってはびっくりすることだったんじゃないのかな?」
千景「驚いてはいるわ。ただ……あの人、と言うよりその近しい人ならそこまですると思ってしまったのよ」
園子「もしかして、私のご先祖様とも知り合いだったりするの?」
千景「面識はないし、元の世界に存在しているかも不明よ。私が"彼女たち"を知っているのは、単に、初代勇者たちの記憶を植え付けられてしまっているからに過ぎないわ」
園子「記憶を植え付けられている?」
千景「……どうやらあなたもそこまでは知らないようね。あの手甲は私ではない郡千景の記憶が収められているの。……力を使えば使うほど、私がその郡千景に塗りつぶされてしまうほど強烈にね」
千景(現に七人御先を使用してから私の記憶の半分程度は書き換えられてしまっていた。正確には勇者部に入部した辺りから異変は起きていたように思うから、急速に進行してしまったと言うのが正しいのか)
千景(ただ、幸いだったのは、書き換えは過去から行われるらしく高嶋さんと出会ってからの記憶は現状一切冒されていない。……その分、胸糞悪くなるような隣人たちとの思い出が頭の中に詰め込まれてしまったのだけれどね)
園子「……乃木若葉様、高嶋友奈さん、伊予島杏様、土居球子様。最初の勇者はこの四人だったと言われているけど、残された御記には明らかに検閲された痕跡が多数見受けられた。……そっか、千景ちゃんは五人目の、歴史の中に葬られた勇者だったんだね……」
千景(……)
千景「初代勇者である郡千景と私を同一視しないでもらえるかしら? 私は私。ここに居る私は歴史に抹消された郡千景じゃない」
千景(……あなたに記憶を侵食されていく気持ちが分かるの? 自分自身、気付かないうちに別の自分に変わっていくのよ? 恐怖すら感じずに、当たり前だと受け入れて。……本当は怒りを見せる場面だったのかもしれないが、今の私は怒りすら浮かんでこない)
園子「ごめんね、失言だった。……恨んでいる? 私もご先祖さまも」
千景(その質問は正直答えに迷う部分がある。それでも、本音だけで言葉を作るのであれば)
千景「……恨み妬みは不思議なことに、今の段階ではないわね。大分郡千景の記憶にやられているからなのかもしれないけれど。ただ、こんな無責任なことをされたことに対する怒りだけはあると思うわ」
千景(本当は怒りなどない。きっと失われた記憶部分の私ならそう言うと想像して発言しただけに過ぎない。なのに、乃木園子は初めてその左目の瞳を揺らし、神妙な顔つきで、言葉で私に告げる)
園子「若葉様の分も私が謝ります。……ごめんなさい。こんな言葉で許してもらえるとは思いませんが、どうか──」
千景「それこそ、そんな言葉は要らないわ。私に必要なのは、元の世界へと戻る方法。そして、私は高嶋さんのところに必ず帰るのよ」
千景(それが、まだ失われていないはずの私自身の記憶から生じた、郡千景の唯一の願いだった)
113Res/169.55 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
書[5]
板[3] 1-[1] l20