【オリジナル】ファーストプリキュア!【プリキュア】
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582:名無しNIPPER[saga]
2018/05/27(日) 10:03:57.49 ID:IIOvQ4Oi0

…………………………

「はぁ……」

 毎朝、新聞には目を通しているのだから、当然、夕方から雨が降るということは知っていた。

 そうでなくたって、今は梅雨時。雨が降ることを予測して、カバンの中に折りたたみ傘を入れておくのが基本だ。

「やってしまった……」

 はじめは肩を落として、ため息をついた。

 どうして雨が降ることを予見していたのに、折りたたみ傘を入れてくるのを忘れてしまったのだろう。

 間違いなく、母から鈴蘭の話が出たからだろう。

 どうして学園のロッカーに入れてある置き傘を持ってくるのを忘れてしまったのだろう。

 間違いなく、学校で鈴蘭と母のことをずっと考えていたせいだろう。

「くしっ……」

 くしゃみと共に、身体に寒気が走る。身体中びしょ濡れで、震えは止まりそうにない。

 この日は、帰りのホームルームが終わるまではよかった。その後、置き傘を持たずに学園を出たのがよくなかった。水分をたっぷりとため込んだ雨雲が決壊したのは、家まであと数分という地点だ。慌てて折りたたみ傘を取り出そうとカバンを漁るも、見当たらない。仕方なく近くにあったスーパーマーケットの軒先に逃げ込んだときには、すでに身体はびしょ濡れだった。

「さすがに寒いな……」

 とはいえ、雨は止みそうにない。スーパーマーケットで傘を購入することも考えたが、びしょ濡れのまま店の中に入り店を汚すのははじめの矜持が許さない。雨に打たれながら家まで走ることも検討したが、それが果たして騎馬家の跡取りとして、ダイアナ学園中等部の生徒会長として、相応しい姿なのかというと、そうは思えない。しかしこのままびしょ濡れのまま、店の軒先で震えているというものあまりにも惨めではないだろうか。



 ―――― 『騎馬家の跡取りとして相応しくないような行為は慎みなさい』



 母の言葉が脳内を駆け巡る。母ならどうするだろうかと考える。

 間違いなく、母ならばまず傘を忘れるような愚を犯さないだろう。つまり、はじめはびしょ濡れの状態で軒下を借りている現状からして、母の期待を裏切っていることになる。

「あの……」

 そんな風に悩んでいると、横から話しかけられた。顔を向けてみると、そこには小学校中学年くらいだろうか。小さな男の子が片手にスーパーマーケットのビニル袋を提げて立っていた。

「ん、なんだろうか。何かお困りかい? 迷子かな? 私にできることがあれば、何でも言ってくれ」

 びしょ濡れだろうとなんだろうと、はじめははじめだ。直前まで悩んでいたことなどおくびにも出さず、はじめは騎馬家の跡取り、そしてダイアナ学園中等部生徒会長らしい余裕にあふれた泰然たる笑みを浮かべて、男の子に応対した。

「いや……どちらかというと、困っているのはそちらだと思いますけど……」

 男の子はそのはじめの変わり様に少し戸惑っているようだった。

「傘がないんですか?」

「む……。まぁ、そうなるかな」

「女性が身体を冷やすといけないと、母と姉から聞いています」

 男の子ははじめに傘を差しだした。

「これ、使ってください」

 その唐突な申し出に、はじめは面食らう思いだった。

「それを私が受け取ったとして、君はどうするんだ」

「走って帰ります。家、すぐ近くなので」

「いや、いやいや……」

 男の子が何を言っているのか、はじめには理解しがたいことだった。



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