【オリジナル】ファーストプリキュア!【プリキュア】
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359:名無しNIPPER[saga]
2018/03/04(日) 11:52:43.36 ID:NMs8LA5T0

…………………………

「……それで、お話とはなんでしょうか」

 下宿に帰宅してすぐ、彼は管理人であるひなぎくに呼び出され、彼女の部屋に赴いた。彼女らしからぬ、いや、らしいと言った方がいいのだろうか。簡素ながらも可愛らしい家具やぬいぐるみを置いた部屋だ。

「あのね、学校では、仕事に専念した方がいいと思うの」

「……?」

「学校はあなたにとって仕事場だわ。仕事場で、仕事以外のことばかりしているというのは、社会人としてよくないことだわ」

「はぁ。そうですか」

 何を言われるかと少なからず緊張していたが、そんな気の抜ける話だったとは。彼は袖の裏に隠していたナイフをそっと奥に戻す。

「それは命令ですか?」

「命令だなんてそんな。そうじゃなくて、あなたは社会人なの。しっかりとしなくちゃいけないわ。それだけよ」

 本当に、どうしたというのだろう。化けの皮を一枚被っただけで、この変わり様か。彼は呆れかえりながらも、ひなぎくの言葉に素直に首肯した。

「なるほど。わかりました。今後、学校での勝手な行動は慎みます」

 彼のその言葉に、ひなぎくさんは目に見えてホッとしたようだった。

「分かってくれたなら嬉しいわ。晩ご飯、いつも通り用意してあるから、たくさん食べてね。おやすみなさい」

「ありがとうございます。おやすみなさい」

 部屋を後にして、ドアを閉める。酷薄な笑みは、自然と浮かぶ。

「……腑抜けになったのか? それとも演技か? どちらにしろ、ぼくをあまり甘く見ない方がいいと、思うけどね」

 ふと、リビングの灯りがついていることに気づく。覗き込むと、テーブルにはこれでもかと書類が広がり、その前でうんうんと唸っているガタイのいい男性がいる。

「……何をやっているんだい、郷田先生?」

 そういえばこのガタイのいい体育教師もダイアナ学園にいるはずなのに、しばらく姿を見かけていない。郷田先生は憔悴しきった顔を上げ、言った。

「ああ、蘭童か。家では先生をつけなくて構わんぞ。学校では同僚だが、家では同居人にすぎんからな」

「君はまったく、この世界に馴染みすぎだと思うけどね」

 彼は対面に座り、そっと書類を一枚取り上げる。

「……なんだいこれは」

「研究授業用の学習指導案だ。作ってみたのだが、指導教諭の先生にダメ出しをたくさんもらってしまった。今度の研究授業までに練り直さねばならん」

「仕事は職場でやったほうが良いと思うけどね」

「そうしたいのは山々だが、先日、高等部の部活動の指導も頼まれたのでな。学校では事務的な仕事をする時間がなかなか取れないのだ」

「……君は一体どこに向かっているんだ」

「与えられた使命である以上、潜入もしっかりとこなさねばならん。そのための授業力向上、それだけだ。生徒に半端な授業をするわけにはいかんからな」

「そうかい。真面目だねぇ」

 興味は失せた。彼はそっと立ち上がり、玄関に向かう。

「おい、こんな時間にどこへ行く」

「君の作業が終わるまで晩ご飯が食べられそうにないからね。ちょっと散歩だよ」

「あ……! す、すまん、すぐに片付けるから、ちょっと待っててくれ! 自室の机も書類でいっぱいなんだ!」

「構わないよ。好きなだけやってくれ」

 生真面目な同僚兼同居人とのやりとりに嫌気がさして、彼はそのまま外へ出る。

「……さて。今回の作戦は失敗したけど、今度ばかりは、失敗するわけにはいかないからね」

 酷薄に笑み、跳ぶ。彼には、そう。もうひとつ、ホーピッシュ侵攻の足がかりがある。



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