【モバマス】十年後もお互いに独身だったら結婚する約束の比奈と(元)P
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23: ◆Z5wk4/jklI[saga]
2017/12/22(金) 23:20:37.90 ID:bG9RVlfB0
「そんなこと……!」

 身を乗り出して反論しようとしたとき、座っていたテーブルの上に、何者かの手が置かれた。
 驚き、そちらを見る。――先輩が立っていた。

「先輩。……お久しぶりです」

「よっ」先輩は相変わらずの軽いノリだった。それから、沙理奈と比奈のほうを見る。「お話し中悪い、ボクと約束しててさ。ちょっと借りていい?」

「どうぞー、たまたま偶然会っただけですし、ヨタ話しかしてませんでしたから」

 そう言って沙理奈はいたずらっぽく笑い、比奈は納得いかないといった表情で口を尖らせた。

「ま、そんなに時間がかかる話じゃないからこの場でいいや。手短に言うよ。アイドル事業部にちょっと人が足りなくてね。有能なプロデューサーを探してる。美城に戻っておいでよ」

 先輩はこともなげにそう言った。

「は?」
「へ?」
「えっ?」

 比奈と沙理奈を含め、三人して思わず訊き返す。事態が飲みこめず、一瞬、沈黙がその場を支配した。

「ちょ、ちょっとまってください先輩」左手でこめかみを押さえ、右の手のひらを先輩に向けて、窮状を示す。「そんないきなり戻って来いって言われても、今の勤め先にだって……」

「ああ、そのことなんだけどさ、実はキミ、転職じゃなくて、出向扱いなんだよね」

「……は?」

「当時の話だよ。いくら自由競争って言っても自社の関連会社の社員を引き抜くなんてカドが立つでしょ? だから、先方の人事担当が美城のほうに挨拶に来たの。で、こっちとしても優秀なプロデューサーを引き抜かれるのは痛い、だから間を取って転職じゃなく出向扱いにして、美城に戻ってきてほしい時の保険をかけたってわけ。ちょうどプロジェクトが一段落したところでしょ? 先方にも話は通してあるから」

「……」

 先輩が何を言っているのかはわかる。けれど、頭がついていかない。口の中でもごもごと事態を反芻しているあいだに、沙理奈がテーブルに手をついて立ち上がった。

「ちょっと待ってよ! せっかくプロデューサーが比奈ちゃんと結婚できるように美城辞めたのに、戻ってくるんじゃ結婚できないじゃん!」

「ちょ、ちょっとなに言ってるっスか、沙理奈さん!?」

 比奈が悲鳴みたいな声を挙げる。
 先輩は沙理奈と比奈をそれぞれ一瞥したあと、こちらを見て続ける。

「……『知らないよ』。ああちょっと訂正、落ち着いてね、松本さん。十年どちらも独身だったら結婚するって話は知ってる」

「先輩まで知ってるんですか!?」

 思わず、悲鳴みたいな声が出た。
 比奈に至っては両手で顔を覆っている。耳まで赤い。

「知ってる。ま、それはそれとして、キミが荒木さんとの結婚を考えて美城を辞めたつもりだったとしても、それは個人の個人的なことなんだから、美城には関係ない。……判るよね?」

 先輩はあくまで平坦に、そう告げてきた。

「……はい」

 返事をしながら、頭の中でぐるぐると複数のことを同時に考えていた。

 そもそも転職ではなく出向だったのだとすれば、ずっと、美城の社員のままだったということになる。そうだとすれば、前提が崩れる。
 不用意な約束がその期限を迎え、比奈と結婚するような事態になったときに、比奈に恥をかかせないためにその準備をしてきた。それが成立しなくなる。プロダクションの人間が元とはいえ所属のアイドルと結婚するなんて、許されはしないだろう。

 そのことを考えた瞬間に胸に去来したのは、残念、という想いだった。そういう想いだったことに驚いた。もしも状況が結婚することを許さないならば、晴れて不用意な約束の履行を免れるはずなのにも関わらず、である。

 となりの比奈を見る。比奈はじっと、口を小さく開けて、テーブルを見ていた。

 ――比奈は、どう思っているんだろう?




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