【モバマス】十年後もお互いに独身だったら結婚する約束の比奈と(元)P
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22: ◆Z5wk4/jklI[saga]
2017/12/22(金) 23:18:22.31 ID:bG9RVlfB0
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 五月の下旬。やや大きな仕事が片付き、肩の荷が下りたタイミングで美城プロダクションに赴いた。約束の時間に少し遅れるかもしれないので、プロダクション内のカフェで待っていてほしいと言われている。費用はプロダクション持ち。
 カフェに到着すると、いくらかの客に混じって、ふたつの見知った顔があった。
 一人は松本沙理奈。大きく肩を出したファッションが意識しなくても目に入る。カフェには社内の人間がほとんどとはいえ、芸能人としての自覚を疑うほどに目立っていた。
 もう一人は荒木比奈。沙理奈とは対照的に比奈は群衆の中の一人に紛れているが、沙理奈と同じテーブルに着いている時点で、カモフラージュは意味をなさなくなる。

「あれっ? ナニやってんのこんなとこで! こっちおいでよ! ほらっ!」

 沙理奈に見つけられ、テーブルに来るように促された。ざっとあたりをのテーブルを見渡して、待ち合わせの相手が到着していないことを確認してから、沙理奈たちのテーブルに着く。

「久しぶり。変わらないな、二人とも」

「座ってよ! ひっさしぶりー! 元気だった?」

「どもっス」

 比奈とはなんともぎこちないアイコンタクトを交わした。

「どうして来たの?」

 沙理奈はメニューを手渡してくる。

「なんか、先輩に呼び出されてさ……あ、ブレンドのレギュラーサイズお願いします」

 俺は通りかかったウェイトレスにブレンドコーヒーを注文する。
 スーツのジャケットを椅子にかけながら、こんどはカフェの全体を観察する。一部の内装が新しくなっているが、大部分は最後に訪れたときと同じだった。店内の何か所かに『ウサミンデーは毎月17、27日!』と貼りだされている。

「菜々さん、まだここでやってるんだ」

「イベントの日だけね。うさ耳つけてウェイトレスしてるって。ここでお世話になったからって、ほとんどボランティアらしいわ。あの人も変わらないよね」

 沙理奈が話しているあいだに注文が運ばれてきた。カップを手元に寄せ、ひと口含む。プロデューサー時代に飽きるほど飲んだが、いまでは懐かしい味だった。

「菜々さん、いくつになったんだっけ?」

「今年、17歳っス」

「17歳かー」

「17歳よねー」

 三人それぞれが、しみじみと言い、それぞれのカップに口をつける。

「あ、そういえば!」沙理奈がはっとしたような顔で言った。「二人さ、あと一年で結婚するんでしょ!? もうすぐじゃない!」

「ぶっ!」

「っ!」

 比奈と二人して口に含んでいた飲み物を吹きだす。さすがにこれは予想していなかった。

「沙理奈がなんで知ってるんだ!?」

「え?」

 沙理奈はきょとんとしている。
 それで察した。沙理奈の顔はそもそもこの件を秘密だとは思っていない顔だ。この話を知っているのは恐らく少数ではない。

「えふっ、ふっ……あは、は……」むせていた比奈は呼吸を整え、困ったように笑う。「まあ、あと一年ありますから、そのあいだに先に相手を見つけたほうの勝ちっス」

「あ……」

思わず短い声が漏れ出た。比奈は何も間違ったことを言っていない。なのに、なんとなく胸が痛んだ。

「そうだな。ま、比奈にそれができるとも思えないけど」

 負けじと比奈を煽りながら、比奈の言葉を頭の中で繰り返す。そう、これは賭け。先に相手を見つける勝負。

「ふふん、それはこっちのセリフっス。一般人に戻っても彼女の一人もできないプロデューサーがあと一年でどうにかできるとは思えないっス」

 比奈も目を細めて不敵に笑う。

「もーいいから二人とも期限とか無視してくっついちゃえばいいんじゃない?」

「なんでそうなる!」

「そうっス! 飛躍しすぎっス!」

 沙理奈の軽い物言いに二人して食って掛かった。その必死さが面白かったのか、沙理奈はけらけらと笑う。

「だってさ、仲いいし。もう二人とも、ほかに相手見つける気なんてないでしょ?」


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