ムーディ勝山に受け流されたものたちが暮らしている街
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19:名無しNIPPER[saga]
2017/12/05(火) 22:44:34.39 ID:oGGqqfyD0
「そうは言っても、そんな細かいところなんて覚えていませんよ」
 ねえ、とマスターは店の片隅の、例の常連客に話をふる。

 読んでいた文庫本からちらりと顔を挙げ、
 どーでもいいですよ、と彼女は言って顔を戻す。

「単純にあなたの覚え違いでは?」

 そこなんだよ、と私は勢い込んで机を叩く。

「覚えていられないのだ、"細部"を。
 例えば喫茶店の窓から見える景色。
 確かにあの位置に理容店のサインポールが立っており、
 そこから左側に見えるエアコンの室外機の上にはサボテンが並んでいたような気がする。
 しかし、それだけなのだ。
 この窓から目を離せば、すぐにどんな景色だったのか、ぼやけてしまう。
 記憶に残されるのはぼんやりとしたサインポールやサボテンだけだ。

 だいいち、人にしたってそうだ。
 数日に一回すれ違っているはずの村長、
 私は彼がどんな顔をしていたのか、全く思い出せないのだ」

「確かに、村長の顔って印象薄いですね。
 私もよく思い出せません」

「だろう?
 つまり、細部を覚えていられない、
 この曖昧さが、この街の特徴なのだと言えるのではないだろうか?」

「記憶のない人がそう言っても……」

 私は机に倒れ伏す。
 私の記憶力に関しては、確かに私も信用できない。

 




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